東北大学は5月25日、電波の反射方向を動的制御可能な60GHz帯電波向け多素子IRS(知能電波反射面)を用いた実証実験に成功したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 情報科学研究科の川本雄一准教授らの研究チームによるもの。なお今回の実証実験に使用されたIRSは、東北大とパナソニック システムネットワークス開発研究所によって共同で研究開発が進められてきたもので、製作は同研究所によるもの。また実験については、東北大学が設置場所の選定やビーム制御方向などを検討し実施された。
現在稼働中の第5世代移動通信システム(5G)以降の無線通信においては、ミリ波やテラヘルツ波などの高周波数帯の電波を利用した通信の利用が考えられている。これらの電波は、同時に送信できる情報量が多く、高速で通信できるメリットがある一方で、直進性が高いために障害物に遮られてしまい、建物や壁などの陰には届きづらいという弱点を抱えていた。
そこで検討が進められているのが、物質の電磁気特性を人工的に操作するメタマテリアルの単位構成要素である微小な構造体の「メタ原子」を平面的に集積させた電波の反射板であるIRSだ。これは、各メタ原子の反射特性を変更することで、IRSに入射した電波の反射方向を任意の方向に制御でき、これにより障害物などを迂回して電波を届けられるようになるものだ。
またIRSは、基地局やリピータに比べ、安価かつ低消費電力であるため、低コストでのネットワーク拡張に寄与するというメリットも有する。さらに、IRSは屋内なら壁や天井、屋外ならビルの壁面や信号機など、設置場所の柔軟性が高く、景観に配慮した整備もできるという。IRSはこのような特徴から、6G以降の超高速通信を支える技術の1つとして期待されている。
そこで今回、IRSを無線通信システムに組み込み効果的に利用するための方式検討を進める川本准教授らの研究チームは、超高速無線LANに利用される60GHz帯の電波の反射方向を制御可能なIRSを利用して、実証実験を実施したという。
同実験で利用されたIRSは、縦横80素子ずつの合計6400素子で構成され、60GHz帯に対応。研究チームはこのように多素子からなり、電波の反射方向を外部から制御可能なIRSを用いた電波反射実験の成功は、世界でも初めての例だとしている。
今回の実験では、正面からIRSに入射させた電波を30°および45°方向にそれぞれ反射するよう設定を変更し、その反射方向でそれぞれ受信電力を計測するもの。その結果、設定された両方向で高い受信電力が計測され、IRSが指定した方向に電波を反射させていることが確認されたとする。
研究チームは今後、より現実に近い環境下での実験、たとえば屋外においてビルの陰に対して映像を伝送する、などの実験を予定しているという。またこのIRSを実環境においてより効率的に利用するために、時々刻々と変化する周辺環境やユーザからの要求に対して、動的に反射方向などを制御するための制御方式の開発を実施するとした。これにより、Beyond 5Gの時代にあらゆる場所・時間で、今後登場するより高度なアプリケーションを自由に利用可能な世界を実現する通信環境の提供を目指すとしている。