「日米欧の国際連携で最先端の半導体を」ラピダス・小池淳義の決意

北海道で新工場を建設

総額5兆円規模の巨額投資に

「これまでいろいろな方と議論してきて、しっかりとした先端半導体の技術がないと、日本はダメになると何度も言ってきた。今は経済安全保障という面もあり、当社にフォローの風が吹いている。国際連携で2ナノ(ナノは10億分の1メートル)の先端半導体の量産技術を確立していく」

 こう語るのは、Rapidus(ラピダス)社長の小池淳義氏。

 昨年8月、次世代半導体の国産化を目指す新会社として設立されたラピダス。トヨタ自動車やNTTなどの大企業8社が出資し、経済産業省も700億円の補助金を投じて次世代半導体の国産化を後押ししている。

〝産業のコメ〟と言われる半導体の中で、同社がつくろうとしているのは、電子機器の〝頭脳〟を担う最先端のロジック半導体。ロジック半導体はスーパーコンピューターや最先端のAI(人工知能)に不可欠の半導体。軍事品などにも搭載される半導体は、米中対立などを背景に経済安全保障の観点から重要性が高まっており、国内での製造基盤強化は喫緊の課題である。

 ラピダスが目指すのは、回路線幅2ナノメートルの最先端半導体の生産技術の確立。半導体は回路の線幅が細いほど性能が高く、現在の先端品は3ナノメートル。半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子が先行し、両社は2025年に2ナノの量産を目指している。

 ラピダスは年内に北海道千歳市で新工場の建設を開始。2025年に竣工、2027年に2ナノの量産を開始する計画だ。総額5兆円規模の巨額投資になる見通しで、経産省も新たに2600億円の補助金投入を決定。まさに官民挙げての先端半導体づくりである。

 ただ、現状、日本で製造できるのは40ナノの製品にとどまり、業界関係者曰く「残念ながら日本は10年、20年遅れている」。

 3ナノに限らず、先端品とされる10ナノ以下の半導体は、約9割が台湾で製造されている。米中対立が激化する中、ひとたび台湾に有事が起きれば調達が滞る可能性が高い。そのため、政府はTSMCを誘致し、熊本に新工場を建設中。海外企業では異例といえる最大4760億円の補助金を投じて、国内での製造基盤強化を進めている。

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 そうした状況下、後発組のラピダスが巻き返しを図るための秘策は〝国際連携〟だった。

 ラピダスは昨年12月、先端微細化回路の基礎研究で成果を上げている米IBMと提携。また、先端半導体に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置は蘭ASMLが市場を独占しているが、ラピダスは今年4月、このASMLとコンソーシアムを組むベルギーの研究機関imec(アイメック)とも提携。

 ラピダスはすでに米国にあるIBMの研究開発拠点にエンジニアを派遣しており、いかに双方から技術を習得できるかが今後の成否を占いそうだ。

 ただ、技術供与を受けるとはいえ、10年、20年の周回遅れという現状をたった数年で追いつくことができるのだろうか?

 こうした疑問に対して、小池氏は「(TSMCなどの)後追いではなく、われわれはいきなりジャンプして、新しい技術を習得しようとしている。IBMやアイメックだけではなく、装置メーカーや材料メーカーなども全面的に支援すると言ってくれている。国際連携でラピダスをしっかり運営していく」と語る。

 昨年11月の記者会見でも、会長の東哲郎氏(東京エレクトロン前会長)は「日の丸連合では勝てない。世界の技術を結集していくという観点が重要」と話しており、同社は官民だけでなく、日米欧の国際連携に勝機を見出そうとしている。

 日本の半導体は1970年代から80年代にかけて世界を席巻し、80年代後半には世界シェアの約5割を占めていた。しかし、日米貿易摩擦や〝失われた30年〟を経て、日本勢は投資余力を失った。この間、韓国や台湾が力をつけ、継続的な投資が必要な半導体の世界で、今や日本は韓国・台湾勢に後塵を拝する形となった。

 小池氏は日立製作所の出身。生産技術本部本部長や半導体製造子会社社長などを歴任し、2018年から米ウエスタンデジタルの日本法人社長をつとめるなど、40年以上に渡り半導体業界に身を投じてきた。日本の半導体の栄枯盛衰を間近で見てきただけに、日本の半導体復活へかける思いは強い。

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企業の志が試されている

 もっとも、国主導の戦略を巡っては、過去に失敗した事例もある。半導体メモリーの旧エルピーダメモリは、国の公的支援も受けたが、2012年に会社更生法の適用を申請して経営破綻。半導体ではないが、液晶パネル大手のジャパンディスプレイは会社設立時に2千億円の出資を受けながら、9期連続の最終赤字に低迷している。

 ラピダスもエルピーダの二の舞にならなければいいのだが、こうした懸念を小池氏はどう払しょくしていくのか。

 小池氏は「これまで国が関与するいろいろなプロジェクトがあって全部失敗したわけではない。大事なことは企業の最終的なゴールと国のゴールが一致すること。企業は利益だけを求める資本主義ではなく、〝志本主義〟で本当の志が試されているのではないか。最終ユーザーが本当に望んでいるものに特化した半導体をつくり、新たなバリューを生み出していく」と語る。

 社名のラピダスは「速い」を意味するラテン語にちなんだもの。いかに海外の技術を習得しながら、国や出資企業8社などの利害関係者を調整し、素早い経営判断をしていくのか。日本の半導体復活へ向け、小池氏の手腕が問われている。

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