また、グアム島のイオノゾンデ観測によって、電離圏が250kmから400km近くまで上昇していることが示され、急激なTEC値の上昇と同期していたとのこと。その上昇後にプラズマバブルが起きており、この電離圏の上昇がプラズマバブルの発生に関わっていることが推察された。さらに、対流圏輝度温度変化との比較から、グアム島に気圧波が到来する約2時間前から電離圏の上昇が始まっており、対流圏を伝搬する気圧波よりも早い大気変動を考える必要が出てきたとする。

  • グアム島上空におけるTEC変化(a~c)、電離圏高度変化(d)、および対流圏輝度温度変化(e)の時系列プロット。a~d中の黒点線は2022年1月13日の、赤実線は同15日のデータ。またe中の黒点線は、グアム島内の観測点の地理緯度。

    グアム島上空におけるTEC変化(a~c)、電離圏高度変化(d)、および対流圏輝度温度変化(e)の時系列プロット。a~d中の黒点線は2022年1月13日の、赤実線は同15日のデータ。またe中の黒点線は、グアム島内の観測点の地理緯度(出所:名大プレスリリースPDF)

そこで、急激な電離圏TECの上昇と、対流圏輝度温度変化の開始時間差の空間分布に関する調査を行った結果、全体的に電離圏TECの上昇が始まる時間の方が、対流圏輝度温度変化よりも約20分~約2時間早く始まること、その開始時間差は南半球よりも北半球側で大きいことが判明した。その原因として以下の2点が考えられるが、詳細なメカニズムについては今後の研究に託されるとしている。

  1. 噴火によって発生した気圧波が高温の熱圏に到達し、そこで加速された気圧波が対流圏を伝わる気圧波を追い越す形で伝わり、電離圏の上下運動をもたらした
  2. 南半球で発生した電離圏変動が高速で磁力線に沿って北半球に伝わった

研究チームは今回の研究により、トンガ沖海底火山噴火に伴う気圧波に伴って、プラズマバブルがアジア域低緯度電離圏かつ通常では考えられない高高度で発生していたこと、および電離圏の高度上奏が気圧波の到来より早く開始していたことを発見した。この結果は、火山噴火などを通じて対流圏で生じた大気変動が、数分から数十分かけて電離圏へ伝搬して電離圏電子密度変動を引き起こすという従来の地圏-大気圏-電離圏結合の考え方を見直すことを示唆するとしている。

  • 電離圏TEC変動と対流圏輝度温度変化の開始時間差の空間分布。この時間差は、0~120分間のカラースケールで示されている。同心円は、1000kmごとのトンガ火山からの距離。

    電離圏TEC変動と対流圏輝度温度変化の開始時間差の空間分布。この時間差は、0~120分間のカラースケールで示されている。同心円は、1000kmごとのトンガ火山からの距離(出所:名大プレスリリースPDF)

また、今回の噴火のような大規模な場合、通常では起こりにくいとされる条件下でも、プラズマバブルが形成されうることが示された。このような事例は、現在の宇宙天気予報モデルには取り入れられておらず、今後、似たような事例を解析して得られた知見を取り入れていくことが期待されるという。またそれにより、今後、地震や火山噴火などの自然災害に起因した電離圏かく乱が起こった場合に、衛星放送や通信の障害の軽減に貢献できると考えられるとしている。

  • 噴火後に観測されたプラズマバブルの発生メカニズム。左の縦軸は高度、値と目盛は各領域の境界の大まかな高度。

    噴火後に観測されたプラズマバブルの発生メカニズム。左の縦軸は高度、値と目盛は各領域の境界の大まかな高度(出所:名大プレスリリースPDF)