京都大学(京大)は5月15日、従来は不可能と考えられていた高階微分を含んだ時空計量の変換を開発し、これを用いて重力理論の枠組みを拡張することに成功したと発表した。

同成果は、京大 基礎物理学研究所(YITP)の髙橋一史特任助教、リスボン大学の南辻真人研究員、工学院大学の本橋隼人准教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会が刊行する理論物理と実験物理を扱う欧文オープンアクセスジャーナル「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載された。

アインシュタインの一般相対性理論はこれまでのところ、標準的な重力理論として広く認められているが、その修整や拡張を唱える研究者も少なくない。同理論は低エネルギー領域での有効理論であって、高エネルギー領域では修正されるべきとするものや、重力理論の検証にあたっては一般相対論との比較対象として拡張した理論を考えるべきといったものなど、多様な拡張重力理論が提唱されている。

一般相対論は時空の幾何学を司る計量テンソルを用いて重力を記述する理論であり、数学的には「計量テンソルのみで記述される理論のうち運動方程式が(高々)2階微分方程式となるような最も一般的な理論」という特徴づけが可能だとする。実は、一般に高階の運動方程式を持つ系は「オストログラドスキー・ゴースト」という不安定な自由度を持っており、その意味で「運動方程式が2階となること」は合理的な要請であるといえるという。

これに対し、拡張重力理論は一般に計量以外の自由度を含むが、その多くは計量テンソル以外にスカラー場を含んだ拡張重力理論(スカラーテンソル理論)として実効的に記述されることが知られている。一般相対論に対応して、スカラーテンソル理論中で2階の運動方程式を持つ最も一般的な理論もすでに知られており、それは今日では「ホルデンスキー理論」と呼ばれている。なお同理論自体、多数のスカラーテンソル理論を内包した一般的な理論の枠組みと見なすことができるとする。

広大なスカラーテンソル理論の理論空間を調べるにあたっては、場の変換を通じて異なる理論同士がどのように結びつくかを調べることが有用だという。そうした変換として、従来はスカラー場の1階微分までを含んだ計量の可逆変換である「disformal変換」が知られていた。変換が可逆であるとは、変換前後の理論を自由に行き来できるという意味だとする。同変換を用いると、前述の高階微分に伴う不安定性を回避しながら、ホルデンスキー理論をさらに拡張することが可能だ。一方で、スカラー場の高階微分を含みつつ変換を可逆にすることは長らく不可能と考えられていたという。

そうした予想に反して研究チームは今回、高階微分を含んだ可逆変換である「一般化disformal変換」を開発することにしたとする。そして、同変換を用いて既存のスカラーテンソル理論の枠組みを大幅に拡張することに成功し、その拡張された理論は「一般化disformalホルデンスキー理論」と命名されたとした。同理論は最も一般的な拡張重力理論の枠組みとして、理論・観測の両面から、包括的な重力理論研究を可能とするものであり、今後のさらなる進展が期待されるという。

今回の研究による新たな理論は、宇宙初期に生じたインフレーション、現在の宇宙の加速膨張を司るダークエネルギー、ブラックホールや重力波放出など、宇宙で生じるさまざまな現象に適用することが可能だとする。また、一般相対論の予言との食い違いを示唆する観測結果の説明や、将来的に検証可能な新たな現象の発見も期待されるとしている。

  • 拡張された重力理論の概念図

    拡張された重力理論の概念図。Horndeski理論(図中のH)にdisformal変換を施すと、より広いクラスであるdisformal Horndeski理論(図中のDH)が得られるとした。今回の研究ではdisformal変換の高階微分を含んだ一般化を用いて、既存の枠組みを大幅に拡張した一般化disformal Horndeski理論(図中のGDH)が構築された。この手法は系統的に一般化することが可能であり、任意の高階微分を含んだ変換にまで拡張できる可能性も示された (出所:京大YITP Webサイト)