ジャパンディスプレイ(JDI)は、2022年度(2022年4月~2023年3月)の連結業績を発表した。それによると売上高は8.5%減の2707億円と減収。EBITDAはマイナス361億円の赤字に転落したほか、営業利益はマイナス443億円の赤字、経常利益はマイナス429億円の赤字、当期純利益はマイナス258億円の赤字となった。

  • JDIの業績推移

    JDIの業績推移 (出所:JDI)

ディスプレイ業界の三重苦の影響で業績が低迷

JDI代表執行役会長兼CEOのスコット・キャロン氏は、「厳しい結果となった。EBITDAは赤字に転落し、大変申し訳なく思う。深くお詫びする」と切り出し、「背景にあるのは、コスト増、需要減、稼働減というディスプレイ業界の三重苦である。対策が物足りないことは確かである。だが、今期は底を打ったと見ており、引き続き、抜本的な対策を講じ、有言実行で改善することが経営陣の使命である」と述べた。

  • ジャパンディスプレイ 代表執行役会長兼CEOのスコット・キャロン氏

    ジャパンディスプレイ 代表執行役会長兼CEOのスコット・キャロン氏

JDI執行役員 CFOの坂口陽彦氏も、「2020年度から2021年度にかけては戦略的施策が功を奏し、業績が一時的に改善傾向にあったが、2022年度に入り、外部環境が著しく悪化し、それまでの施策ではそれに抗うことができず、惨憺たる結果となった」と総括した。

営業利益においては、為替は116億円のプラス影響となったが、市場悪化による販売数量の低下でマイナス201億円、部材などの高騰でマイナス150億円、エネルギー費用の増加でマイナス80億円などのネガティブ影響があった。

セグメント別業績をみると、スマホ向けとなるモバイル分野は、売上高が前年比35.7%減の756億円。「事業モデルの課題のひとつは、コモディティ化された商品が中心になっている点である。JDIの独自価値を示すことができていない。エンジリアリングリソースを集中し、他社ができないものにシフトする一方、赤字商品、薄利商品からは撤退し、収益性を高めていく」(キャロン会長兼CEO)という。中国向けや欧米向けの商品の販売を戦略的に縮小させており、その動きが今回の売り上げ減少に影響している。

  • JDIの2022年度モバイル分野の売上高推移

    JDIの2022年度モバイル分野の売上高推移

車載分野の売上高は前年比25.8%増の1345億円。「戦略的分野であり、成長性が高い分野である。長期契約を結んでおり、安定性もある。2023年度は不採算商品を減少させるために売り上げは減少させるが、長期的に受注を得ているものがあり、今後、成長していくことは間違いがない」(キャロン会長兼CEO)と自信をみせた。

半導体不足などによる自動車メーカーの生産調整の影響を受けるものの、旺盛な顧客需要を取り込むことができたという。

  • JDIの2022年度車載分野の売上高推移

    JDIの2022年度車載分野の売上高推移

ノンモバイル分野の売上高は前年比15.3%減の605億円。「2022年度は、経済環境の鈍化の影響を受けて前年割れとなったが、今後の成長性が高い分野である。スマートウォッチやVR向けなどの新商品が登場することで、JDIも量産体制に入ることになる」(キャロン会長兼CEO)とした。

  • JDIの2022年度ノンモバイル分野の売上高推移

    JDIの2022年度ノンモバイル分野の売上高推移

2023年度も減収見通しも2024年度には回復へ

2023年度業績見通しは、売上高は19.4%減の2400億円、EBITDAはマイナス340億円、営業利益はマイナス404億円の赤字、経常利益はマイナス432億円の赤字、当期純利益はマイナス478億円の赤字を見込んでいる。営業利益では、市況低迷や部材価格高騰のマイナス影響があるものの、商品ミックスの改善と、固定費改善の効果が拡大すると見ている。

  • 2023年度の業績予想

    2023年度の業績予想

セグメント別では、モバイルの欧米における売上高は前年比76.3%減の140億円、同じく中国では68.9%減の52億円。欧米と中国をあわせた2022年度の売上高は757億円だったが、2023年度には192億円へと約560億円も減少させる計画だ。また、車載の売上高は前年比6.2%減の1263億円。ノンモバイルは前年比56.2%増の945億円を見込んでいる。

「2023年度も経済の停滞が続き、コスト増も継続し、市場環境は厳しいと見ている。だが、モバイルや車載の一部商品といった不採算事業からの戦略的撤退を進め、採算性の高いポートフォリオへの見直しを推進する。2023年度上期には売上げを落とすが、営業利益は下期から加速度的に改善する。2024年度以降には、構造的な収益改善が実現することになる」(坂口CFO)とした。

なお、2024年度には、売上高が2858億円と増収を見込むほか、EBITDAは80億円と黒字化。営業利益は増益になるものの、マイナス51億円の赤字。当期純利益も増益基調にあるが、マイナス109億円を見込んでいる。

売上高の内訳は、車載が1516億円、ノンモバイルが1342億円を計画。モバイルはゼロにする計画だ。「モバイルを中心とした不採算商品は、数年間をかけて、お客様と話を進め、作りだめや代替サプライヤーの提案などにより、ようやく膿を出し切ることができる」とした。

2024年度も、営業利益は赤字が残るが、eLEAPの量産開始や、VRおよびウェアラブル向けノンモバイルの増加、車載の増加などで139億円の増加、不採算商品の削減を背景にした商品ミックスの改善で204億円の増加を見込んでいる。

JDIが目指すディスプレイ産業の新たなエコシステム構築

JDIでは、成長戦略「METAGROWTH 2026」を策定し、顧客価値と収益力の創造に取り組んでいる。

キャロン会長兼CEOは、「守りに入り、事業を縮小して、しのぐという手もあるが、JDIにとって、いまは大きく改革を起こすことが必要不可欠である」とし、「世界初、世界一の独自技術でないと、顧客価値を創出できない。革新的な技術によって、飛躍的な成長を遂げることが、METAGROWTH 2026の狙いのひとつにある」としたほか、「ディスプレイ産業では、各社が同じような事業戦略を打ち出し、同じようなタイミングで、同じような投資を行い、同じように大赤字になる。これでは継続性がない。JDIはまったく異なる事業モデルによって、顧客価値を創出する。それがMETAGROWTH 2026のもうひとつの狙いである」と位置づけた。

また、キャロン会長兼CEOは、「JDIが目指しているのは、ひとことでいえは、独自技術に基づいた世界のディスプレイ産業のエコシステムを新たに構築し、日本の技術を世界のデファクトスタンダードにすることである。生産拠点に投資をするのが基本ではなく、他社資本による生産を行う。また、独自の新技術は収益性を高めることにつながる。CPUでいえば、Armのような構造を作ることに取り組んでいる」と述べた。世界第3位のディスプレイメーカーである中国HKCとの戦略的提携も、そうした狙いからのものだ。

また、METAGROWTH 2026の6つの成長ドライバーを掲げている。高輝度、長寿命、高精細を実現する次世代OLED(有機EL)の「eLEAP」、超低消費電力、高精細化、大画面化を実現する「HMO(High Mobility Oxide)」、圧倒的なリアリティと没入感を実現するメタバース向け「超高精細ディスプレイ」、EVに対応した統合コックピットを実現する「AutoTech」、世界最高の透過率を持つ透明インタフェースの「Rælclear」、独自技術の用途拡大による「新技術・新商品・新事業」である。

  • 成長ドライバーの1つ「eLEAP」の概要

    成長ドライバーの1つ「eLEAP」の概要

とくに、キャロン会長兼CEOが強調したのが「eLEAP」の強みだ。eLEAPは、マスクレス蒸着とフォトリソグラフィによる商品化を実現した次世代OLEDで、従来商品に比べて、輝度が5倍になり、寿命を3倍に伸ばすことができるという。また、低コストで生産でき、量産にも適している。

「eLEAPは、輝度が高いため、太陽光の下で見る場合にも適しており、軽量化、低消費電力化、柔軟性に加えて、耐久性も高い。これまでのOLEDは、寿命が短いため、3年程度で買い替えるスマホでは半分ぐらいのシェアがあっても、長期間使用する車載には向いていないため、採用率はわずか1%程度に留まっていた。eLEAPは車載も適している技術として注目されている」という。eLEAP は2022年8月にサンプル出荷を開始し、2023年2月には最初の受注を獲得。現在、複数社とライセンスの協議を行っているという。2024年には量産を開始する予定だ。

さらに、HMOでは、消費電力を約4割削減できることから、数日ごとに充電すればいいといった使い方ができ、様々な用途に応用できるという。HMOは2024年に量産を開始する予定だ。

キャロン会長兼CEOは、「JDIは、公的資金が投入された企業である。METAGROWTH 2026に取り組むことで、成長を続けていきたい」と語った。

アセットライト化で事業構造を変革

一方、これまでの生産拠点の最適化の取り組みについても説明した。

キャロン会長兼CEOは、「ディスプレイ産業の事業モデルは重厚長大であり、重たい投資が必要になる。また、稼働率を高めるために赤字受注するといったことも行われている産業である。他社のそうした罠に落ちないように、できるだけ身軽な体制にしておく必要がある。JDIは、アセットライト化への取り組みにより、すでに年間330億円の固定費削減を実現している」と述べた。

2020年10月には石川県の白山工場を売却。2021年12月には台湾のKaohsiung Opto-Electronicsを、2023年1月には中国のSuzhou JDI Electronicsをそれぞれ売却したほか、2023年3月には愛知県の東浦工場の生産を停止し、2024年4月に売却する予定だ。また、千葉県の茂原工場の生産能力も半減している。

  • アセットライト化により固定費を年間330億円削減

    アセットライト化により固定費を年間330億円削減

キャロン会長兼CEOは、「これは攻めの経営である。JDIは、重工長大の企業から、エンジニアリングカンパニーやテクノロジーカンパニーにシフトすることを目指している」と位置づけた。

また、先ごろ発表したJOLEDの支援についても「攻めの経営」と表現。「約100人の優秀なトップエンジニアがJDIに入り、世界初や世界一の技術の開発を加速してもらうことができる」とした。

「攻めの経営」を支える財務基盤として、2022年2月に、JDIが無借金化したことを強調。「業界で最強の財務基盤が整った」と述べた。2022年度末の自己資本比率も55.8%に高まり、「世界初や世界一への調整を続けることができる」と、強気の姿勢をみせた。

2027年度に売上高7672億円を目指す

今回の会見で明らかにしたのが、インドにおける新たな生産戦略の推進だ。

インドでは、国策としてディスプレイ産業を育成したいと考えており、JDIに対しても、インド政府やインドの有力企業から、技術支援や共同事業に向けた引き合いが数多くあったという。

「だが、これまでの引き合いの多くは、液晶パネルの生産や、テレビ用大画面パネルの生産に関するものであった。それではJDIの特徴が生かせない。液晶パネルの生産はJDIの基本戦略とも合致しない。大画面パネルも経験がない。ここには経営資源は投入しないと考えた。現在、インドの企業との協議をしているのは、最先端のeLEAP向けの工場建設である。これであれば競争力が維持できる。具体的な協議を継続しているところである」と述べた。

すでに、中国では、2023年6月までに最終契約を結ぶ予定のHKCとの戦略提携により、両社が共同で、eLEAPのための世界最先端工場を、中国国内に建設し、2025年からの量産開始を目指すことを明らかにしている。

キャロン会長兼CEOによると、今回の会見にあわせて、METAGROWTH 2026の財務目標をアップデートする予定だったというが、HKCとの最終締結が2023年6月に予定されていることから、それを受けて、2023年8月に公表することにしたという。

「eLEAPとHMOを中心に顧客との話し合いが進み、受注を獲得している。双方のテクノロジーロードマップの擦り合わせも完了している。METAGROWTH 2026の財務目標についても、より蓋然性の高い数値が提示できるだろう」とし、「残念ながら黒字化の時期は1年伸びたが、2027年度の売上高が増加する」と、アップデートの方向感を示した。

現時点での財務目標としては、2027年度に売上高が7672億円、EBITDAが991億円、営業利益は824億円を見込んでいる。

キャロン会長兼CEOは、「JDIは直面している課題に対して、戦略的に対応し、まったく異なる状況を作りはじめている。身軽さとともに、技術の価値に基づいた新たな収益モデルを構築し、2024年度からの恒常的黒字化に向けた抜本的収益基盤の強化に、継続的に取り組んでいる。JDIが持つ技術は、マイナーチェンジではなく、これまでの常識を変えるようなメジャーチェンジのものばかりである。ヒットやバントではなく、ホームランを狙っている。さらに、ディスプレイエコシステムを新たに構築し、新たな価値を創造していく」と述べた。

厳しい事業環境が続くなかでも、復活に向けて着実な歩みを見せていることを裏づける方針が、2023年8月に、改めて示されることになりそうだ。