大阪大学(阪大)は4月28日、脳の側坐核に存在する「ドーパミンD2受容体発現ニューロン」(D2ニューロン)の活性化が、同じ失敗を繰り返さないために必要であることを発見したと発表した。
同成果は、阪大 蛋白質研究所の疋田貴俊教授、同・Tom Macpherson助教、同・西岡忠昭特任研究員(現・マウントサイナイ医科大学ポストドクター)、阪大 理学研究科のSuthinee Attachaipanich大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
ヒトをはじめとする動物は、多くの失敗を経験することでその理由を学び、より良い行動選択が行えるようになる。最適な行動選択を行うには、成功した際の行動を積極的に行うことに加え、同じ失敗をいかに繰り返さないようにするか対策をすることも重要だ。しかしこれまでの研究では、主に成功につながった行動を促進するメカニズムのみが注目されており、動物がどのように失敗につながった行動を抑制しているのか、その詳細な脳内メカニズムは未解明だったという。
またその要因として、複雑な脳機能を理解するためには細胞の種類を分けて解析する必要があるため、遺伝学的なアプローチが有効になるが、マウスのようなモデル生物では、高次な脳機能を調べる行動実験系が存在しないことが課題だったとする。
そこで研究チームは今回、マウスを用いて、失敗につながる行動を積極的に抑制する必要がある認知行動課題の開発を新たに行うことにしたという。そして開発された認知行動課題を用いた実験の結果、マウスが高度な戦略を学習することが可能であることが確認されたという。
続いて、遺伝学的手法を用いて、側坐核のドーパミンD1受容体発現ニューロン(D1ニューロン)およびD2ニューロンを区別し、小型顕微鏡を用いて1細胞レベルでのカルシウムイメージングが行われた。すると、大多数のD2ニューロンは、失敗(無報酬)を経験した直後に素早く活性化することが判明したという。
さらに光遺伝学を用いて、D2ニューロンの失敗直後の活性化を阻害すると、同じ失敗を再びしてしまうようになることが発見された。このことから、失敗直後のD2ニューロンの活性化が、同じ失敗を繰り返さないために必要であることがわかったとする。これにより、失敗の経験がどのように脳内にフィードバックされ、同じ失敗を繰り返さなくなる(行動抑制する)のかが明らかにされたとしている。
今回の研究により、失敗の経験がどのように脳内にフィードバックされ、同じ失敗を繰り返さなくなるのかが解明された。研究チームは、適切な行動抑制ができない薬物依存症や、失敗を恐れて行動することができない引きこもりといった精神疾患の治療にも、将来的に役立つことが期待されるとした。