東京大学(東大)大学院新領域創成科学研究科とファームシップは、フィルム状の有機半導体センサを開発し、水耕栽培に使用する液肥の主要成分であるカリウムイオンの安定的な計測技術を確立。さらに、このセンサを用いて液肥を一定濃度に制御した水耕栽培設備で、レタスの栽培実験に成功したことを発表した。
近年、植物工場が注目を集めており、露地栽培に比べて天候に左右されず、狭い土地で安定的に生産できることから生産が拡大している。だが一方で、液肥成分の濃度を多地点のモニタリングでリアルタイムに計測する小型で安価な機器がなく、栽培制御の課題となっていた。
この課題を解決するべく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業に着手。その中で東大とファームシップは、水耕栽培に使用する液肥の主要成分を検出するセンサの基本技術開発を進めてきた。
そして東大などは、有機半導体を用いたイオンセンサを組み込んだ液肥成分の検出装置の開発を行ったという。同装置は、液肥中に置かれた有機半導体の電気伝導度が、隣接イオンとの電気的相互作用によって変化する原理を利用し、イオン濃度を測定する。具体的には、東大が開発した、大気中で塗布可能で安価かつ大面積の単結晶薄膜を得られる有機半導体を用い、電極形成を工夫することで電気二重層トランジスタとして利用。この電気二重層トランジスタにイオン選択感応膜を搭載し構造を工夫することで水溶液中のイオン濃度測定が可能となったとする。
また東大などは、今回開発されたセンサにより、液肥の主要成分であるカリウムイオンの安定的な計測技術を確立したという。従来は、液肥成分の濃度のばらつきによって収穫時の重量に大きな差が生じ、その濃度を一定にするべく、定量的にモニタリングしようとするとコスト増につながる実態があった。だが同センサを用いることで、安価にカリウムイオンを検出し、液肥の濃度流量を調整して一定に保つことができるとしている。
東大などは、開発した有機半導体を用いたイオンセンサを活用することで、小型の水耕栽培液肥濃度安定化システムを構築し、レタスの栽培実験にも成功している。これにより、イオンセンサにおける基本構造の検証ができたとする。
東京大学とファームシップは今後も、センサ精度の向上や安定性を検証するとともに、実際の生産現場に適用できるシステムの開発を行うとする。また、レタスなどの植物工場だけでなく、温室などで行われる養液栽培への適用や農業で広く使われるイオンセンサへの検討を進めるとしており、周辺技術と組み合わせることで、フードロス削減につながる高精度な需給調整システムの実現を目指すとのことだ。