新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は4月12日、2020年度から始めた「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品技術の開発」プロジェクトの中で、大成建設、埼玉大学などの4機関が研究開発を進めてきた「微細藻類を用いたバイオ燃料生産」プロジェクトの研究開発成果として、燃料物質となる“油”を微細藻類細胞の外に生産する微細藻類の開発に成功し、実用化への道を切り開いたと発表した。

大成建設などの4機関は今回、微細藻類の一種であるシアノバクテリア(ラン藻)の「PCC7942株」の特定遺伝子の発現を抑制・強化する手法によって、燃料物質となる“遊離脂肪酸”(Free Fatty Acid)を細胞外につくる微細藻類の研究開発に成功し、その生産工程を実現するメドを付けた(図1)。

  • 微細藻類の細胞の外に燃料物質を作製させることによって“燃料”生産する生産工程の模式図

    図1 微細藻類の細胞の外に燃料物質を作製させることによって“燃料”生産する生産工程の模式図(NEDOの公表資料から引用)

今回の研究開発成果のポイントは、「外来遺伝子を導入する手法を用いない非遺伝子組み換え生物手法によって、特定遺伝子の発現を抑制・強化する手法を用いて燃料物質となる“油”を、微細藻類の細胞外に生産させることに成功した点にある(図2)」と、埼玉大学大学院理工学研究科生命科学部門の西山佳孝教授(図3)は解説する。

  • 微細藻類の細胞の外に燃料物質のFFAを作製させる生産模式図

    図2 微細藻類の細胞の外に燃料物質のFFAを作製させる生産模式図。外来の遺伝子を組み込まない非組み換え生物の微細藻類で実現(NEDOの公表資料から引用)

これによって将来、ジェット燃料やディーゼル燃料などの燃料物質を、微細藻類につくらせる生産手法の実用化に道を開いたといえる。藻類の細胞外に、燃料物質をつくらせることができると、藻類が生産した燃料物質を取り出すことが容易になり、将来は微細藻類に燃料を生産させる技術開発のコスト低減に道を切り開いたことになるからだ。

  • 埼玉大大学院理工学研究科の西山佳孝教授

    図3 埼玉大大学院理工学研究科の西山佳孝教授

これまでの微細藻類の「PCC7942株」は細胞内に“遊離脂肪酸”をつくるために、この燃料となる“遊離脂肪酸”を細胞外に取り出す工程に、製造エネルギーの50%以上を使うというバイオ燃料の生産フロー(図4)から、コスト面では実用化が難しいと考えられてきた。細胞内につくられた“遊離脂肪酸”を細胞外に抽出するには、有機溶媒などによって細胞の外に抽出する工程が必要になるための工程が必要になり、その工程のエネルギーが不可欠となり、その分だけ高コストになっていたからだ。

  • 従来のバイオ燃料製造フロー

    図4 従来のバイオ燃料製造フロー。微細藻類の細胞内に燃料物質を作製させる場合には、燃料物質の生産工程にエネルギーを多く消費する(NEDOの公表資料から引用)

今回の研究開発プロジェクトの基盤になった研究開発成果は、科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業 探索加速型として、名古屋大学(名大)、埼玉大学、中部大学、かずさDNA研究所、大成建設の5者が研究開発してきた研究開発成果になる。このJSTでの研究開発成果を基に、NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品技術の開発」によって実用化を図るためのプロジェクトに応募して採択され、研究開発が実施されたものだ。JSTの事業では、名大の小俣達夫教授が研究開発面でのリーダーを務めたが、小俣教授が退任されたために、NEDO事業では埼玉大 理工学研究科の西山佳孝教授が研究開発面でのリーダーを引き継いだ。

大成建設の技術センターは培養システムの生産性を向上させ、効率的な培養システムを確立し、事業化の基盤を築くことを目指している。大成建設は元々、排水処理技術とそのシステム化を手がけており、そのシステム化のノウハウなどを基に、微細藻類からの燃料物質を取り出すシステム化を実現する生産工程の事業化を図る見通しだ。