続いて、SrTiO3-xHxの多結晶体(x=0.068)について、熱電変換効率を調べたとのこと。すると、H添加SrTiO3-xHxの多結晶体は、温度が下がっても出力因子が増加することが判明。その値は、粒界の無いランタン添加SrTiO3単結晶に匹敵するほどの高いものだったとする。SrTiO3-xHx多結晶体では粒界散乱がほとんど寄与しておらず、室温でも単結晶と同等の高い電子移動度を示すために、高い電気伝導度と出力因子を実現できることが明らかにされた。
-
SrTiO3-xHxの多結晶体における(a)出力因子、(b)電子移動度(重み付き移動度なのでドリフト移動度の約45倍の値になっていることに注意)、(c)熱電変換効率の温度変化。ランタン(重元素)を添加したSrTiO3単結晶と多結晶の熱電特性を比較として示している(出所:東工大プレスリリースPDF)
最後に、H置換によってSrTiO3の熱伝導率が低減されるメカニズムについて、第一原理量子計算による解明が試みられた。Hの質量だけを重水素(D)とOの質量で置き換えて熱伝導率を計算したところ、質量差による熱伝導率の違いはほとんど無いという結果が得られたという。
そこでチタン(Ti)とHおよびOとの結合の違いに着目したとする。HとOでは化学的性質が異なるため、H添加SrTiO3では、結合距離の短い(結合力の強い)Ti-Oと、結合距離の長い(結合力の弱い)Ti-Hが形成されて混在する。今回用いられたSrTiO2.75H0.25の構造モデルでは、全部で7通りの異なるH配置が可能なことがわかっている。これらすべてのH配置に対応する熱伝導率を計算したところ、H配置によってTi-OとTi-Hの結合距離が異なり、結合長の差(偏差)が大きいほど熱伝導率が小さくなることが導き出された。つまり、Hの添加でSrTiO2.75H0.25中のTi-(O,H)結合距離に差が生じた結果、熱の伝搬が阻害され、熱伝導率が低減されることが解明されたのである。
-
(左)SrTiO2.75H0.25モデルのHをDとOの質量で置き換えた場合における格子熱伝導率。(右)Hの配置が異なるSrTiO2.75H0.25構造モデルA~Gにおける、室温の熱電変換効率とTi-(O,H)結合距離の偏差の関係(出所:東工大プレスリリースPDF)
現状におけるSrTiO3-xHx多結晶体の熱電変換効率は、室温で0.11、380℃で0.22であり、Bi2Te3の変換効率0.8よりも低く、さらなる熱電特性の向上が必要な状況だ。研究チームによると、今後、H置換により低熱伝導率化させる方法をさまざまな酸化物に展開することで、酸化物の熱電変換効率をさらに向上させることが期待できるという。