米国のCHIPS and Science法(CHIPS法)では、米国内に半導体製造施設の新・増設を行うための補助金を受給した半導体メーカーは中国、北朝鮮、イラン、ロシアなどでの半導体への設備投資などが10年間にわたって制限される。

台湾勢でもっとも影響を受けるTSMC

こうした動きを踏まえ、TrendForceでは、2023年上半期以降、多くのファブレスが製造委託先の多くを中国から台湾のファウンドリにシフトする動きが高まっていくとの見方を示している。中でも成熟プロセスを事業の柱に据えているVanguard International Semiconductor(VIS)やPowerchip Semiconductor Manufacturing(PSMC)などの台湾ファウンドリは、大きな恩恵を受けることが予想され、この注文の地域シフトによって、2023年下半期から2024年にかけて、現在在庫調整と低稼働率の影響を受けている台湾ファウンドリ各社の業績を回復させることになるとしている。

また、TSMCは、中国と米国の両方で生産能力を拡大する計画を立てているため、台湾企業の中でもっともCHIPS法の影響を受けるとTrendForceでは指摘している。すでにTSMCは2022年10月に、1年間にわたる製造装置の輸入許可を得て、中国南京工場(Fab 16)での生産能力拡張に向けた装置の搬入を進めており、2023年半ばに完了する見通しだが、CHIPS法による補助金需給が決まれば、Fab 16の28/22nmおよび16/12nmラインのさらなる拡張は10年間は制限されることになるほか、拡張した場合であっても、その生産量の85%が中国市場で消費される必要が生じることになることから、TSMCの中国への投資意欲は低下するものとTrendForceではみている。

  • 2023~2025年の中国におけるTSMCの300mmウェハ生産能力予測

    2023~2025年の中国におけるTSMCの300mmウェハ生産能力予測 (出所:TrendForce、以下同様)

メモリ分野での脱中国が加速

CHIPS法は主にDRAMでは18nm(1Xnm)以降のプロセスへの適用が想定されている。現在の主流は1Z世代であり、SK hynixは中国にファブ(無錫)を有している唯一の外資系DRAMサプライヤだが、新規ファブは韓国に建設する予定で、無錫ファブでのDRAM生産割合は現状の48%から44%へと引き下げられる予定である。

  • 2023~2025年の中国、韓国、その他の国・地域におけるDRAM生産量シェア予測

    2023~2025年の中国、韓国、その他の国・地域におけるDRAM生産量シェア予測

一方のNANDについては、Samsungの西安ファブ(128層)が世界のNAND容量の約17%、SK hynixの大連ファブ(旧Intel)が約9%を占めているが、両社ともに128層品が、より層数の多い製品と競合できないとの判断から、それらのラインを拡張する可能性は低く、それらのアップグレードや生産能力拡張も限定的となるため、全体の生産能力に占める中国の割合は2023年の31%から2025年には18%まで低下するとTrendForceでは予想している。

  • 2023~2025年の中国、韓国、その他の国・地域におけるNAND生産容量シェア予測

    2023~2025年の中国、韓国、その他の国・地域におけるNAND生産容量シェア予測

現在、多くの米国企業が、メモリおよびストレージ製品の生産地域を制限し始めているほか、ファウンドリの生産地を中国外にするよう求めているという。そのためTrendForceでも、中国内の需要を満たすことに重点を置いた中国の工場と、中国外の市場に対応する中国以外の工場という2種類の生産地域形成が進むと予測している。