Lam Researchの人間とAIが協業することで半導体プロセス開発におけるプロセスエンジニアリングコストを50%削減できることを確認したとする研究結果が科学誌「Nature」に掲載された。
半導体は世界のデジタル化の潮流に乗って、その適用範囲を日々拡大させており、その市場規模は2030年までに1兆ドルに到達するとも予想されている。一方で、半導体の高性能化に向けた技術革新を加速させつつ、研究開発コストを抑えるという二律背反の課題が半導体業界全体にのしかかっており、その解決策の探索が急務となっている。
そうした中、同社は、より効率的なアプローチの探索として、優秀なプロセスエンジニアとAIを搭載したコンピュータアルゴリズムとを対決させる研究を行ったという。半導体チップやトランジスタの製造には、エンジニアが各プロセスステップに必要なパラメータや、その組み合わせなどを指示するレシピを作成する必要があるが、ウェハ上に薄膜を形成し、余分な部分をエッチングで除去する複雑な工程の多くが、エンジニアの直感と試行錯誤に頼っており、チップの設計ごとにある固有レシピと組み込みオプションの組み合わせが100兆以上であることを考慮すると、プロセス開発には労力と時間とコストがかかり、次世代の技術革新の達成に余計に時間がかかることとなってしまう。
そこで、テストバッチ、計測、諸経費に関連するさまざまな要因を考慮して、もっとも低コストで目標とするプロセス開発レシピを開発することを人間とAIで競い合わせる試験を実施。その結果、あるドライエッチのプロセス開発完了までのコストは、コンピュータアルゴリズムのみで73万9000ドル、エンジニアのみで10万5000ドル、そして最初のうちはエンジニアが行い、その後にAIがそれを補完した場合だと5万2000ドルとなることが確認されたという。
同社では、この「Human First, Computer Last」のアプローチについて、熟練のエンジニアは、プロセスの傾向と依存関係に関する事前知識を有しており、開発の初期段階での優位性がある一方、AIはターゲットの厳しい許容誤差付近でコスト効率が高いため、開発の後期で優れていることが示された。こうしたハイブリッド戦略が、プロセス開発の面倒を解決し、最終的にはプロセスエンジニアリングの革新を加速させるのに役立つと結論付けている。
なお、プロセスエンジニアリングにおけるAIの適用はまだ初期段階にあり、当面は人間の専門知識とドメイン知識が不可欠であるが、今回の研究は、半導体製造のためのプロセス開発の方法を根本的に変えるための道筋を示したものとなると同社では説明しており、今回の研究から得られた成果を開発業務に取り入れていくとしている。