イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXが開発した巨大ロケット「スターシップ」が、まもなく初の飛行試験に挑む。

早ければ日本時間4月17日21時00分にも打ち上げられる予定で、ロケットはすでに発射台に立っており、最後の点検や審査も完了している。

史上最大にして最強の打ち上げ能力をもつスターシップ。その初の飛行試験の先に待っているのは、人類の火星移住という壮大な目標である。私たちを乗せ、太陽系の海を渡り、火星へ連れて行ってくれる宇宙船が、産声を上げようとしている。

  • 発射台に立ち、打ち上げを待つスターシップ

    発射台に立ち、打ち上げを待つスターシップ (C) SpaceX

史上最大、最強のロケット

スターシップ(Starship)は、スペースXが開発中のロケットで、全長は120m、直径は9mもあり、さらに第1段には33基ものロケットエンジンを装備する。そして、最大100人か、もしくは150t以上の衛星や物資を宇宙へ運ぶことができる、史上最大・最強のロケットである。

機体は2段式で、1段目のブースターが「スーパーヘビー」、2段目と宇宙船を兼ねた部分が「スターシップ」と呼ばれている。また、これらの総称としても「スターシップ」と呼ばれている。機体はスペースXが製造する特殊なステンレス鋼でできており、銀ピカの姿はさながらレトロSFのメカのようである。

スーパーヘビーもスターシップも打ち上げ後に着陸して回収し、再使用することが可能で、打ち上げコストの低減や打ち上げ頻度の向上が図られている。打ち上げコストについて、マスク氏は「打ち上げ1回あたり約100万ドルを目指す」と発言しており、実現すれば現行のロケットの約100分の1という破格の安さで、宇宙輸送においてゲームチェンジャーとなる可能性を秘めている。

スペースXはスターシップを使い、衛星を一度に大量に打ち上げたり、かつてないほど巨大な衛星を打ち上げたりといった利用が考えられている。また、米国航空宇宙局(NASA)は有人月探査計画「アルテミス」の月着陸船として採用しているほか、実業家の前澤友作氏は、スターシップを貸し切り、月への飛行を計画している。

そして、マスク氏とスターシップの究極の目的は人類の火星移住である。マスク氏はかねてより、地球に小惑星が衝突したり、疫病がまん延したりしても人類が生き延びられるよう、月や火星に住めるようにすべきと主張していた。そもそもスペースXを立ち上げて宇宙ビジネスに参入したのも、人類の火星移住を実現するためだったのである。

これまでに、スターシップの2段目部分は、高度約10kmまで飛行して着陸する試験を行い、2021年には計画どおりに飛行し、成功を収めている。スーパーヘビーは飛行したことはないものの、地上でエンジンを燃焼させる試験を行ってきた。

両者を組み合わせた状態で宇宙へ打ち上げるのは、今回が初めてとなる。

日本時間4月17日10時の時点で、打ち上げは17日21時の予定されている。打ち上げ可能な時間は23時30分まで(150分間)確保されている。

スペースXによると、打ち上げに向けた最後の点検と審査は無事に完了しているという。打ち上げ時間帯における天候も良好とのことだが、ウィンドシアーが発生する可能性があり、注意深くチェックしているという。ウィンドシアーとは、風速や風向に差がある状態のことで、この中をロケットが通過すると、最悪の場合機体が折れる危険性がある。

スペースXでは、打ち上げの45分前となる20時15分から生放送を行うとしている。

  • 2021年に行われた、スターシップの試作機による飛行試験の様子

    2021年に行われた、スターシップの試作機による飛行試験の様子 (C) SpaceX

  • 今年2月に行われた、スーパーヘビーの地上燃焼試験の様子

    今年2月に行われた、スーパーヘビーの地上燃焼試験の様子(C) SpaceX

テキサス発、ハワイ行き

今回の飛行試験では、スターシップはテキサス州のボカ・チカにあるスペースXの試験場「スターベース」から打ち上げられる。離昇から55秒後には、「マックスQ」と呼ばれる、ロケットの機体に最も負荷がかかる領域を通過する。

離昇から2分52秒後には、スーパーヘビーからスターシップが分離され、スーパーヘビーは着陸のため地球に向けて飛行し、一方のスターシップはエンジンに点火して加速を続ける。

スーパーヘビーはその後、大気圏に再突入し、エンジンを逆噴射しながら降下して、離昇から約8分後にメキシコ湾に着水する。なお、実際の運用段階では、発射場に舞い戻り、発射塔に設けられた巨大なアームを使って挟むようにして機体を捕まえて回収し、整備したのち、次の打ち上げを行うことが計画されている。

一方のスターシップは、エンジンを噴射して加速を続け、離昇から9分20秒で燃焼を終了。ここまで無事に進めば、スターシップは地球をほぼ一周する軌道に乗る。今回はあくまで飛行試験であることから、軌道速度にぎりぎり達するかどうかという速度で飛行し、そのまま放っておいても地球に再突入するようにされている。これは、まだ開発段階の宇宙船が軌道にとどまり続けないようにするためであると同時に、大気圏への再突入に耐えられるかどうかが、今回の飛行試験における最大の焦点になっているためである。

スターシップはその後、慣性飛行を経て、離昇から1時間17分21秒後に大気圏に再突入する。そして、その約13分後にハワイ・カウアイ島の北西約100kmの太平洋に着水する。

なお、スターシップも、実際の運用では発射場に戻って回収され、次の打ち上げに備えることになるが、今回は水泳の飛び込みで腹打ちするように、水平の姿勢で着水することになっている。

  • 飛行するスターシップの想像図

    飛行するスターシップの想像図 (C) SpaceX