米宇宙企業スペースXは2022年11月1日、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げに成功した。米国宇宙軍の軍事衛星を静止軌道に直接投入した。

ファルコン・ヘヴィは現在世界で最も打ち上げ能力の大きなロケットで、打ち上げは約3年ぶり。

今後、大型の軍事衛星や小惑星探査機、月周回有人拠点「ゲートウェイ」のモジュールなど、数々の重要な打ち上げミッションが控える。

  • ファルコン・ヘヴィの打ち上げ

    ファルコン・ヘヴィの打ち上げ (C) SpaceX

USSF-44ミッションの打ち上げ

ファルコン・ヘヴィは日本時間1日22時41分(米東部夏時間同日9時41分)、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの第39A発射施設から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、2本のサイド・ブースターの着陸にも成功した。

ロケットには米国宇宙軍の軍事衛星「USSF-44」が搭載されていたことから、機密保持のため飛行の詳細は明らかにされなかったが、打ち上げから約9時間後、米宇宙軍は「打ち上げは成功した」と発表した。

USSF-44の詳細は明らかにされていないが、米宇宙軍によると、「安全な測位・航法、機密性の高い通信、さまざまな脅威の検出と識別、その他の重要な機能を可能にするための能力を提供します」と説明している。

また、同ミッションは「LDPE ESPA-2」と「シェパード(Shepard)」試験ミッションの、2機の衛星から構成されているという。

LDPE ESPA-2は、内部に6機の小型衛星を搭載しており、ロケットからの分離後、それぞれの衛星を目的の軌道まで運んだのち分離。これらの衛星は衛星通信技術の研究や宇宙天気の観測などを行うという。

シェパードは、安全で責任あるランデヴーと近傍運用を強化する新技術を試験するために設計されており、「(ロケットなどに結合された状態で運用される)ホスト型ペイロードから、(通常の衛星のような)分離型ペイロードまで、宇宙への安価な経路を提供します」としている。詳細は不明だが、他の衛星に接近したり、ドッキングしたりし、監視や妨害、攻撃などを行うような衛星の技術実証を行うものとみられる。

ファルコン・ヘヴィにとって、今回の打ち上げは2019年6月以来約3年ぶりとなるもので、NSSL(国家安全保障衛星打ち上げ)プログラムに基づく打ち上げとしては初めてだった。

米宇宙軍で宇宙輸送担当の責任者を務めるスティーヴン・パーディ准将は、打ち上げ後の声明で「今回の打ち上げは、ファルコン・ヘヴィでの最初のNSSLプログラムの打ち上げでしたが、私たちのチームとスペースXのチームの協力により、際立った成功を収めることができました」と称えた。

今回の打ち上げはまた、ファルコン・ヘヴィにとって初となる、衛星を静止軌道へ直接投入するミッションだった。通常、静止衛星の打ち上げでは、静止軌道の一歩手前にあたる、楕円形の静止トランスファー軌道に投入されることが多く、衛星はその後、自身のスラスターを使って自力で静止軌道まで移動する。しかし、打ち上げ能力の大きなロケットであれば、衛星を直接静止軌道に投入することが可能であり、衛星側にとっては静止軌道へ移動する手間やエネルギーが不要になるというメリットがある。

静止軌道への直接投入を行う場合、ロケットの第2段機体は約6時間にわたって宇宙を慣性飛行する必要があり、推進剤が凍結したり蒸発したりするおそれが出てくる。そのため、今回のファルコン・ヘヴィの第2段の燃料タンクには、燃料のケロシンの凍結を防ぐため、灰色の塗装が施されていた。

  • 打ち上げを待つファルコン・ヘヴィ

    打ち上げを待つファルコン・ヘヴィ。静止軌道への直接投入を行うため、第2段のケロシン・タンクが灰色に塗られている (C) SpaceX

ファルコン・ヘヴィ

ファルコン・ヘヴィはスペースXが運用する超大型ロケットで、現在世界で運用中のロケットの中で、最も大きな打ち上げ能力をもつ。

その姿かたちは、同社が運用する大型ロケット「ファルコン9」の両脇に、ファルコン9の第1段機体をブースターとして装着したようなもので、設計や部品の共通化を図ることで比較的手軽に強大な打ち上げ能力をもつ超大型ロケットを開発することに成功。打ち上げコストの低減にも寄与している。もっとも、ファルコン・ヘヴィ専用の設計を取らざるを得なかった部分もあり、完全にファルコン9と共通というわけではない。

中央部の機体の第1段にあたる「センター・コア」と、両脇の2本の「サイド・ブースター」は、着陸、回収、そして再使用ができるうえに、またファルコン9の第1段として打ち上げられた機体をファルコン・ヘヴィの機体として再使用することもできる。この点でも低コスト化が図られている。

打ち上げ能力は、地球低軌道に最大63.8t、静止トランスファー軌道に最大26.7t、火星へは最大16.8tを誇る。ただ、これはセンター・コアやサイド・ブースターを使い捨てる場合の数字であり、回収する場合は打ち上げ能力は大きく落ちる。

最初の打ち上げは2018年2月7日に行われ、試験用の重り代わりに、同社CEOイーロン・マスク氏が所有していた赤い「テスラ・ロードスター」を搭載。火星の公転軌道を越える惑星間軌道に投入した。

その後、基となったファルコン9が「ブロック5」と呼ばれる改良型になったことに合わせ、ファルコン・ヘヴィも改良され、打ち上げ能力や再使用性が向上。2019年4月にサウジアラビアの衛星通信会社アラブサットの通信衛星「アラブサット6A」を、同年6月には米空軍の試験衛星を打ち上げた。ただ、その後は沈黙が続き、今回が約3年ぶり4機目の打ち上げとなった。

強大な打ち上げ能力をもつがゆえに持て余している印象もあるが、今後ファルコン・ヘヴィは忙しくなる予定である。今年末には、別の米宇宙軍の衛星の打ち上げが予定されており、今回の打ち上げで回収したサイド・ブースターを再使用するとしている。

さらに2023年には、米国航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「サイキ」の打ち上げも計画されているほか、2024年には木星の衛星エウロパを探査機するNASAの「エウロパ・クリッパー」の打ち上げも予定されている。

さらに同じ2024年中には、月の南極で水(氷)を探す探査車「ヴァイパー」、そして有人月探査計画「アルテミス」の実現のために必要な月周回有人拠点「ゲートウェイ」のモジュール「PPE」と「HALO」、そのゲートウェイに物資を補給する「ドラゴンXL」の打ち上げなど、数々の重要な打ち上げミッションが予定されている。

もっとも、スペースXは現在、ファルコン・ヘヴィよりも強大かつ低コストな「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」を開発しており、将来的にはファルコン9やファルコン・ヘヴィを代替するとしている。そのため、今後数年以内、遅くとも2020年代の内に、ファルコン・ヘヴィは引退するものとみられる。

  • 打ち上げ後、着陸した2本のサイド・ブースター

    打ち上げ後、着陸した2本のサイド・ブースター (C) SpaceX

参考文献

USSF-44 MISSION - SpaceX - Launches
SLD 45 supports the first National Security Space Launch mission on a Falcon Heavy rocket > Space Launch Delta 45 > Article Display
SpaceX - Falcon Heavy