中国有人宇宙飛行工程弁公室は2022年10月31日、中国宇宙ステーション(CSS)の科学実験モジュール「夢天」の打ち上げに成功した。
夢天はその後、CSSのコア・モジュールとのドッキングに成功。昨年4月から始まったCSSの建設は、ひとまずの完成を迎えることとなった。
今後、宇宙飛行士の滞在をはじめ、さまざまな宇宙実験の実施、さらには宇宙望遠鏡モジュールの打ち上げなども計画されており、米国やロシア、欧州、日本などが運用する国際宇宙ステーション(ISS)と並ぶ、人類の宇宙の橋頭堡として活躍が期待される。
夢天は、中国の大型ロケット「長征五号B」に搭載され、日本時間10月31日16時37分(北京時間同日15時37分)、海南島にある文昌宇宙発射場から離昇した。
今回の長征五号Bには、夢天の打ち上げにあたって、打ち上げ前プロセスの最適化、打ち上げ可能時間(ウィンドウ)の拡大、打ち上げ能力の向上といった改良を加えたという。
打ち上げられたロケットは順調に飛行し、約8分後に夢天を所定の軌道に投入した。
打ち上げ成功に際し、中国国家航天局は「わが国の宇宙ステーション建設ミッションの最終決戦が始まった」とのメッセージを発表している。
夢天はその後、軌道を変更しつつCSSに接近。打ち上げから約13時間後の11月1日5時27分に、CSSのコア・モジュール「天和」の前部ドッキング・ポートにドッキングした。
現在CSSには、有人宇宙船「神舟十四号」ミッションの、陳冬宇氏、劉洋氏、蔡旭哲氏の、計3人の中国宇宙飛行士が滞在しており、夢天の機器の立ち上げや運用開始に向けた準備などを行うことになっている。
CSSと科学実験モジュール「夢天」
中国宇宙ステーション(CSS)は、中国が建設を進めている宇宙ステーションで、宇宙飛行士の長期滞在、宇宙医学、科学実験、技術実験に活用することを目的としている。
CSSは高度約380km、軌道傾斜角(赤道面からの傾き)41.5度の軌道を周回している。これはISSよりも高度はわずかに低く、軌道傾斜角もわずかに小さい。
完成時の質量は約90tで、現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)、かつてソ連・ロシアが運用していた「ミール」に次ぐ規模の、大型の宇宙ステーションとなる。設計寿命は最低10年、また宇宙飛行士による適切なメンテナンスを行えば15年はもつという。内部はタッチスクリーンをもったコンソールがあるなど、ISSと比べ近代的なものとなっている。
CSSの建設は2021年4月、中核となるコア・モジュール「天和」の打ち上げから始まり、今年7月には科学実験モジュール「問天」が打ち上げられ、天和とドッキングした。
建設と並行して、2021年6月からは有人宇宙船「神舟十二号」にて宇宙飛行士が訪れ、滞在がスタート。その後も神舟で宇宙飛行士が訪れたり、無人補給船「天舟」が物資を送り届けたりと、宇宙ステーションの運用も行われてきた。
今回打ち上げられた夢天は、CSSの3基目のモジュールであり、2基目の科学実験モジュールでもある。夢天とは、「天を夢見る」という意味だという。
全長は約17.88m、直径4.2m、打ち上げ時の質量は約23tにもなる巨大な構造物である。さらに全長27mの大きな太陽電池パドルを2翼もつ。
夢天は宇宙科学実験を行うことのみを目的としたモジュールであり、天和、問天にある宇宙飛行士の滞在、生活のための施設・設備はなく、純粋な実験室として開発されている。
船体は宇宙飛行士の作業区画、非与圧実験区画、貨物用エアロック、ロボットアームなどから構成されており、作業区画には多数の実験機器を設置するためのスペースがあるほか、非与圧実験区画は実験装置を真空、宇宙線、太陽風などの宇宙環境にさらした実験を行えるように造られており、専用の貨物エアロックも備えられている。これまで科学実験を船外で行う場合、宇宙飛行士が船外へ出て設置作業を行う必要があったが、この区画とエアロックにより、より大掛かりな実験を効率よくできるようになるという。
さらに小型衛星の放出も可能としているなど、ISSに勝るとも劣らない設備、能力をもっている。