国立天文台(NAOJ)と千葉工業大学(千葉工大)の両者は4月13日、すばる望遠鏡とスペイン・カナリア天体物理研究所のカナリア大望遠鏡という、北半球にある2つの大型光学望遠鏡を用いて、ブラックホール同士の合体による重力波事象をこれまでにない深さで追観測し、その電磁波放射現象「キロノバ」の可能性に制限を与えたことを共同で発表した。

  • 今回の連係観測のイメージ。視野の広いすばる望遠鏡(右)のHSCがまず広範囲を観測して当たりをつけ、カナリア大望遠鏡(左)の分光器OSIRISが詳細に観測し、GW200224に対応する可能性のある天体を19天体まで絞り込むことに成功した

    今回の連係観測のイメージ。視野の広いすばる望遠鏡(右)のHSCがまず広範囲を観測して当たりをつけ、カナリア大望遠鏡(左)の分光器OSIRISが詳細に観測し、GW200224に対応する可能性のある天体を19天体まで絞り込むことに成功した。(c)Gabriel Pérez, IAC(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、NAOJの大神隆幸研究員(研究当時)、カナリア天体物理研究所のホセファ・べセラ・ゴンサレス研究員、NAOJ 科学研究部の冨永望教授、千葉工大 惑星探査研究センターの秋田谷洋上席研究員、同・諸隈智貴主席研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

2017年の中性子星同士の合体による重力波事象「GW170817」では、光学望遠鏡による追観測において、同事象に対応するキロノバが初めて有意に検出された。なおこの時は、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HSC」や多天体近赤外撮像分光装置「MOIRCS」を用いた観測では、中性子星連星合体において「rプロセス元素合成」が起こっていることが確認されている。

しかしこの例を除くと、重力波事象と明確に関連づけられる電磁波放射は観測されておらず、重力波を検出した後、いかに素早く高感度の追観測を光学望遠鏡で行うかが重要な課題となっているという。

重力波望遠鏡による重力波の観測では、検出されたうちのおよそ90%をブラックホール連星の合体が占めている。ブラックホールは、事象の地平面を越えてしまうと光すら脱出できないことはよく知られた事実だ。そのため、ブラックホール連星合体においても、通常なら電磁波が放射されるとは考えられないとされる。

しかし、2019年に検出されたブラックホール連星合体からの重力波事象「GW190521」では、電磁波対応天体の候補が検出されたとの報告があり、電磁波を放射する複数のメカニズムが理論的に提案された。そのため、さまざまな波長の電磁波で追観測が行われ、本当にブラックホール連星合体から電磁波が放射されるのか、放射されるとするとどの程度の明るさなのか、という点を解明することが求められている。そのため、さまざまな可能性を検討する上でも、望遠鏡観測による明るさの測定が不可欠だという。