東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は3月15日、広大な宇宙空間を満たす銀河間ガスの温度が絶対温度で1万度ケルビン(K)以下という、宇宙誕生から30億年しか経っていないまだ冷たい太古の宇宙において、100万K以上の非常に高温に加熱されている領域「COSTCO-I」と呼ばれる原始銀河団(銀河の巨大な集合体)を発見したことを発表した。

また、同領域の総質量は太陽の400兆倍以上、大きさは数百万光年にも及ぶことも併せて発表された。

同成果は、Kavli IPMUのシャン・ドン大学院生、同・キーガン・リー特任講師、米・カーネギー科学研究所の百瀬莉恵子氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

我々が検知できる通常の物質は、全宇宙におけるエネルギーの割合としては、5%にも満たないことが知られている(残りはダークエネルギーが約70%、ダークマターが約25%)。さらにその5%弱のうちで、星や銀河など人間が肉眼でも見られるものはたったの10%。残りは、銀河の外側に広がる広大な宇宙空間を満たす銀河間ガスである。

現在の宇宙に存在する銀河間ガスは、10万K~1000万K以上の高温状態で存在しており、「Warm-Hot Intergalactic Medium」(WHIM)と呼ばれている。しかし、銀河における星形成が最盛期だった100億年以上前は、銀河間ガスのほとんどはもっと低く、1万K以下の比較的低温で存在していたとされる。

波長121.6nmの紫外線スペクトルは、銀河間ガス中の中性水素ガスに吸収されると、その吸収が影のように観測される。そのため、中性水素の吸収は、原始銀河団を探す一般的な探査方法の1つとして用いられている。

ところが研究チームは今回、ハワイ・マウナケア山にある直径10.3mのケックI望遠鏡で観測されたCOSTCO-Iの紫外線スペクトルデータを調べたところ、ある異変が発見されたとする。質量やサイズが大きく、中性水素ガスも豊富な原始銀河団を121.6nmの紫外線スペクトルで観測すると、通常は、中性水素ガスの吸収により大きな影が検出されるという。実際に、同原始銀河団の近傍にあるほかのプロトクラスターではこの吸収シグナルが示されていたが、同原始銀河団の位置では吸収の影が検出されなかったとのことだ。

  • COSTCO-I周囲にて、実際に観測された中性水素ガスによる吸収(上)と、コンピュータシミュレーションから予想される中性水素ガスの吸収の比較。赤は吸収が強い領域、青は弱い領域、緑/黄色は中間領域。図中の黒い点は、同原始銀河団周囲にてこれまで検出された銀河。同原始銀河団の位置(星印)では、観測された中性水素ガスの吸収が、その時代の宇宙の平均値とあまり変わらないことがわかる。銀河が密集している領域には、数百万光年にわたり広がる豊富なガスが存在しており、強い中性水素ガスの吸収が観測されると考えられていたため、弱い吸収を示す結果は驚異的だという。同図は、Dong et al. 2023 Astrophysical Journal Lettersからの引用。(c)Dong et al.

    COSTCO-I周囲にて、実際に観測された中性水素ガスによる吸収(上)と、コンピュータシミュレーションから予想される中性水素ガスの吸収の比較。赤は吸収が強い領域、青は弱い領域、緑/黄色は中間領域。図中の黒い点は、同原始銀河団周囲にてこれまで検出された銀河。同原始銀河団の位置(星印)では、観測された中性水素ガスの吸収が、その時代の宇宙の平均値とあまり変わらないことがわかる。銀河が密集している領域には、数百万光年にわたり広がる豊富なガスが存在しており、強い中性水素ガスの吸収が観測されると考えられていたため、弱い吸収を示す結果は驚異的だという。同図は、Dong et al. 2023 Astrophysical Journal Lettersからの引用。(c)Dong et al.(出所:Kavli IPMU Webサイト)

COSTCO-Iから中性水素が検出されないということは、同原始銀河団のガスは、当時の宇宙において一般的に存在する低温の銀河間ガスよりも、おそらく100万K以上高温であることが示されているとした。現在の銀河間ガスを沸騰し泡立つ巨大な宇宙シチューに例えるなら、同原始銀河団は言うなれば、まだシチューが冷たかった過去の時代の最初の泡だとする。

  • シミュレーションによる原始銀河団周辺の銀河間ガスの大規模加熱を模擬的に可視化したもの。これは、COSTCO-I原始星で観測されたシナリオに近いと考えられている。画像中央の黄色い部分は、数百万光年にわたり広がる巨大な高温ガスの塊。青色は、原始銀河団の外側にある低温のガスで、フィラメントのように原始銀河団周囲の高温のガスとほかの構造をつないでいる。ガス分布中にある白い点は、星から放出された光。(c)The THREE HUNDRED Collaboration

    シミュレーションによる原始銀河団周辺の銀河間ガスの大規模加熱を模擬的に可視化したもの。これは、COSTCO-I原始星で観測されたシナリオに近いと考えられている。画像中央の黄色い部分は、数百万光年にわたり広がる巨大な高温ガスの塊。青色は、原始銀河団の外側にある低温のガスで、フィラメントのように原始銀河団周囲の高温のガスとほかの構造をつないでいる。ガス分布中にある白い点は、星から放出された光。(c)The THREE HUNDRED Collaboration(出所:Kavli IPMU Webサイト)