宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月6日、打ち上げが間近(日本時間で本日21時15分01秒)に迫った木星氷衛星探査計画(JUICE)について記者説明会を開催した。JUICEは、欧州宇宙機関(ESA)が主導する木星探査ミッションである。搭載する10台の観測装置のうち、日本は4台にハードウェア提供で協力するなど、大きく関与。木星やその氷衛星たちの謎の解明に挑む。
JUICEはどんな探査機?
JUICEは、太陽電池パドル展開時の横幅が27mにもなるという、大型の探査機である。重量は、燃料を含まない状態で約2,400kg。木星軌道は太陽から遠く、太陽光は地球軌道の25分の1しか届かないため、2.5m×3.5mという大きな太陽電池パネルを両翼に合計10枚も搭載。これにより、820Wの発電を可能としている。
打ち上げには、アリアン5ロケットを使用する。ただ欧州最大のロケットでも直接木星へは投入できないため、打ち上げ後、地球・月(2024年)→金星(2025年)→地球(2026年)→地球(2029年)とスイングバイを相次いで実施。8年間の長旅を経て、2031年7月にようやく木星系に到着する予定だ。
JUICEが観測するのは、「Jupiter Icy Moons Explorer」という探査機の名称からも分かるように、木星の氷衛星である。有名な4つのガリレオ衛星のうち、表面が氷で覆われているのが、イオ以外の3天体。JUICEは木星を周回しつつ、エウロパ2回、ガニメデ12回、カリスト21回のフライバイ観測を行う予定だ。
このうち、JUICEがメインターゲットとしているのは、太陽系最大の衛星であるガニメデだ。ガニメデの直径は5,268kmもあり、惑星である水星よりも大きいほど。太陽系の衛星の中で唯一、内部に固有磁場を持つなど、ユニークな特徴でも知られる衛星で、氷で覆われた内部には海が存在する可能性があると期待されている。
JUICEは2034年12月に、ガニメデの周回軌道に投入。9カ月ほど周回観測を行ってから、最終的にはガニメデに衝突させ、2035年9月にミッション終了となる。
こういった観測のために、JUICEは10台の観測装置を搭載する。いずれも日本は主担当ではないものの、JAXAは3台にハードウェア提供およびサイエンス参加し、2台にはサイエンスのみで参加。そのほか情報通信研究機構(NICT)も1台にハードウェア提供およびサイエンス参加するなど、大きく貢献している。
JAXA側のプロジェクトチームを統括する齋藤義文氏(JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 教授)は、「ガニメデは日本単独ではまだ行けない場所だが、JUICEへの参加により、自分達で作った観測装置を持って行くことができる。開発は終わったので、次はサイエンス的な成果を出すところに注力していきたい」と意気込みを述べた。
木星の謎が生命の起源に繋がる?
JUICEによって、どんなことが明らかになるのか。JAXA側のプロジェクトサイエンティストを務める関根康人氏(東京工業大学 地球生命研究所所長・教授)は、これについて、「日本がついに小惑星帯を越えて巨大ガス惑星へ行き、生命の可能性の探査に本格的に足を踏み出す記念すべきミッションになる」と、興奮を隠せない様子で話す。
JUICEが目指すのは、まずは、木星がどこでどうやって形成されたのかを調べること。しかし、木星の表面は分厚いガスで覆われており、木星自体に形成当時の痕跡は残っていない。だが周囲の衛星は固体のため、昔の記録を留めていると期待されており、その内部状態や構成物質を調べることで、そういった謎の解明に繋がるという。
小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルから、水や有機物は太陽系内に広く供給されたことが分かったが、それがどうやって起きたのかは謎のままだ。その可能性の1つとして有力視されているのが、木星や土星が軌道を大きく変え、その重力の影響で小惑星が撒き散らされたのではないか、という説である。
こういった惑星の大移動が普遍的に起きるものなのか、それとも何かの偶然だったのかは分からない。しかし木星の歴史を明らかにし、大移動のメカニズムが分かれば、地球のように水や大気を持つ惑星が誕生する確率を知ることができ、「地球上の生命が特別な存在なのか普遍的な存在なのかというところに迫れる」(関根氏)という。
そしてもう1つ注目したいのは、地下に水の海が存在するのかどうか、調べることだ。太陽系内で、表面に水の海を持つ天体は地球だけである。しかし、地下にあると示唆されている天体はすでに10個ほど見つかっていて、太陽系の地下には多様な「オーシャン・ワールド」が広がっていると考えられている。
現在、地下海(内部海とも言う)の存在が確実視されているのは、土星のエンケラドス(エンセラダス)とタイタン、木星のエウロパ、そして冥王星だ。ガニメデもかなり有力視されてはいるものの、まだ確実と言えるほどの証拠は無く、JUICEでは周回観測することで、これを調べる。
また生命の誕生には、液体の水、エネルギー、有機物という3要素が必要と考えられている。地下海には太陽光がほとんど届かないものの、地球のように海底に熱水噴出孔があれば、生命が存在する可能性があり、エウロパの観測では、こういった証拠も探す。
なお、NASA(米国航空宇宙局)はエウロパを観測する探査機「Europa Clipper」を2024年10月に打ち上げる予定で、この木星到着は2030年になる見込み。ほぼ同時期に2つの探査機が木星に着き、その氷衛星を調べるということで、どんな科学的成果が得られるのか、まだかなり先の話ではあるものの、今から楽しみなところだ。
地下海の決定的な証拠を掴めるか?
ガニメデに地下海があるのかどうか、調べる上で大きな武器となるのが、搭載する観測装置「GALA」(ガニメデレーザー高度計)である。この開発はドイツが主導したが、日本は中心部と言える3つの重要なモジュールを担当。この開発については、JAXAのGALA担当である塩谷圭吾氏(JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授)が説明を行った。
GALAは、ガニメデ表面にレーザーを照射して、その距離を計測する装置である。光の速さは決まっているので、照射したレーザーが反射して戻ってくるまでの時間を調べれば、距離が求められる。1回の照射では1点の距離しか分からないが、周回しながら測定を繰り返せば、ガニメデ全体の高精度な3次元形状を知ることができる。
もしガニメデに地下海が存在するのであれば、地球の潮の満ち引きのように、木星の潮汐の影響を受ける。これによる表面の変位は数m程度、最大では7mに達すると計算されているが、もし地下海が無く完全に固体だった場合には、変位は1m以下だと見られている。GALAでこの変位を調べれば、地下海の有無を判別できる、というわけだ。
レーザー高度計は、はやぶさ2にも「LIDAR」が搭載。GALAの開発には、LIDARのメンバーも参加しており、そのノウハウが活かされたという。ただ、塩谷氏によれば、難しかったのは「要求精度の高さ」だったという。
GALAでは、地下海の有無を判別するため、1mという高い精度が求められた。しかも強力なレーザーなら精度を出しやすいが、JUICEは電力的な制約が厳しく、弱いレーザーしか使えない。そのため、受信光学系で高精度のフィルターを工夫して適用し、シグナルの精度を上げるなどして、この要求をクリアしたそうだ。
打ち上げをライブ中継で見守ろう
JUICEの打ち上げは、4月13日21時15分01秒(日本時間)の予定。JAXAによるライブ中継も行われるので、このプロジェクトに興味がある人はそちらを見ると良いだろう。
参考:JUICEライブ中継