東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、名古屋大学(名大)、国立天文台(NAOJ)の3者は4月4日、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」(HSC)での大規模撮像探査「HSC-SSP」による全探査の半分弱にあたる中間データを用いて、宇宙のダークマターの空間分布を精密に測定し、その結果を利用して標準理論の検証を実施したところ、HSC-SSPから得られた「宇宙の構造形成の進行度合いを表す物理量」(S8)が、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を観測して得られたS8と95%以上の確率で一致しないことを確認し、標準理論に綻びがある可能性を確認したと共同で発表した。
同成果は、Kavli IPMUの杉山素直大学院生、同・高田昌広教授、名大 素粒子宇宙起源研究所の宮武広直准教授に加え、NAOJ、台湾、米・プリンストン大学などの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細については、米国物理学会が刊行する素粒子物理学や場の理論・重力などを扱う学術誌「Physical Review D」に5本の論文が投稿され、現在専門家による査読を受けている最中だとする。
現在、S8の値を巡っては、導き出した手法によってその値が大きく異なる不一致が、天文学や宇宙論の研究において大きな問題となっている。これは、標準理論に綻びがある可能性があるということであり、人類がまだ発見していない未知の物理が存在している可能性が取り沙汰されている。
そこで今回の研究では、S8を求めるため、ダークマターの空間分布を従来にない精密さで調べて導き出すという手法が取られた。ダークマターは当然ながら直接観測することは不可能なため、これまでも行われてきたように、ダークマターによって生じる重力レンズ効果に着目された。そのデータとしては、研究チームがHSCを用いて、2014年から2021年にかけて実施したHSC-SSPの半分弱にあたる約3年間分、約420平方度(満月2000個分)の天域の観測データが用いられ、従来にない詳細なダークマターの空間分布が調べられた。
重力レンズ効果による歪みは極めて小さく、個々の銀河からは見分けることは不可能だ。そこで今回は、約2500万個の銀河の形状を組み合わせることで、同効果を正確に測定したという。そして同効果の測定からS8は0.76と導き出され、これまでに行われた欧米の重力レンズ効果の測定結果から導き出された値と一致したとする。