京都大学(京大)と筑波大学の両者は3月7日、ダークマター探索に特化した極低温のミリ波受信機を開発し、0.1ミリ電子ボルト(eV)付近の質量を仮定してダークマターの検出を目指す実験を実施。その結果、ダークマターの検出には至らなかったものの、超軽量ダークマター候補の「ダークフォトン」の探索実験を世界最高レベルの感度で行うことに成功したと共同で発表した。

  • ダークマターとその検出のイメージ

    ダークマターとその検出のイメージ(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大 白眉センターの安達俊介特定助教、京大 理学研究科の小高駿平大学院生(研究当時)、筑波大 数理物質系の本多俊介助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

ダークマターは、宇宙において我々が検出することが可能な通常物質の5~6倍存在すると見積もられている、未知の物質だ。我々のすぐ周囲にも無数に存在し、毎秒大量に身体や地球などを何事もなく貫通しているとされるが、現時点ではまったく検出できていない。また、通常の物質とは重力で相互作用することはわかっているが、その質量などは一切不明だ。

これまで、ダークマターの質量を陽子よりも重いと仮定した上での探索が盛んに行われてきたが、決定的な実験成果は得られていないことから、軽いダークマターの可能性が注目され始めているという。軽いダークマターの候補にもいくつかあり、研究チームが注目しているのが、光と微弱に反応するという特徴を持った粒子「ダークフォトン」である。研究チームは今回、これまで探索されたことがない、人類未踏の質量領域0.1meVを含む超軽量の質量領域のダークフォトンを探索することにしたという。

  • 今回のプロジェクトがターゲットとするダークマターの質量領域とそれに対応する電磁場の波長

    今回のプロジェクトがターゲットとするダークマターの質量領域とそれに対応する電磁場の波長(出所:京大プレスリリースPDF)

ダークフォトンは、金属表面で微弱な光に転換され、その光が金属板の垂直方向に放出される現象を引き起こすと予言されている。そして、その転換光を検出できれば、ダークフォトンの決定的証拠となると考えられている。

ダークフォトンと転換光の間には、それらの持つエネルギーは等しくなるというエネルギー保存則が成り立つ。ダークフォトンの持つエネルギーはその質量に由来し(E=mc2より)、光の持つエネルギーはその周波数に対応することから、転換光の周波数はダークフォトンの質量に1対1で対応するという。たとえば、ミリ波帯域の転換光は、ダークフォトン質量0.05meV~1meVに相当する。この質量領域は、宇宙観測からの間接的な制限が弱く、かつ地上実験による探索もまったくされてこなかったという。

今回の研究では、18GHz~26.5GHzの転換光を受信できる受信機が開発され、金属板からの転換光を検出する実験が行われた。転換光の強度は非常に弱いため、雑音の少ない受信機を開発する必要がある。そこで研究チームは、熱雑音を極限まで抑えられるよう、受信機全体を-270℃の極低温まで冷却できる性能も備えることにしたとする。そして、世界初となるこの質量領域におけるダークフォトン探索実験を、10日間にわたって行うことに成功したとする。ただし、同実験でダークフォトンの検出には至らなかったともしている。

  • (左)今回の研究で開発された、-270℃の極低温まで冷却可能なミリ波受信機と測定機器。(右)受信機断面図

    (左)今回の研究で開発された、-270℃の極低温まで冷却可能なミリ波受信機と測定機器。(右)受信機断面図(出所:京大プレスリリースPDF)

今回の研究により、ミリ波受信機を用いて超軽量ダークマターを探る実験方法が確立された。そのため今後は、測定可能な周波数帯域を変えていくことで、さらなる前人未踏の質量領域にわたってダークマターを探していくことが期待されるという。研究チームはその実現を目指し、今後も研究を進めていく予定としている。また、ミリ波を受信する技術の高度化は、5G・6G通信などの産業技術の発展にも役立つと期待されるとした。