国際農林水産業研究センター(国際農研)、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、名古屋大学(名大)、横浜市立大学(横市大)、理化学研究所(理研)、明治大学(明大)、かずさDNA研究所、科学技術振興機構(JST)、国際協力機構の9者は3月31日、稲穂の基となる「腋芽(えきが)」の生長を促し、穂数の増加に働く遺伝子「MP3」をコシヒカリから同定した。また、MP3の遺伝子配列(遺伝子型)はイネの品種ごとに異なり、コシヒカリに代表される日本イネの一部は、海外の品種「インディカイネ」には見られない、穂数を増やす遺伝子型であることがわかったことも共同で発表した。
同成果は、国際農研の中島一雄プログラムディレクター、同・生産環境・畜産領域の高井俊之主研、同・辻本泰弘主研らを中心とする30名近い研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、植物生物学全般を扱う学術誌「The Plant Journal」に掲載された。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書によれば、二酸化炭素(CO2)の増加により、今世紀末の地球の平均気温は1℃~5.7℃も上昇すると予測されている。気温の上昇は、地域によって作物の生産性を大幅に低下させ、世界の食料安全保障を脅かす恐れがある。一方で、大気中のCO2濃度の上昇は、植物の光合成を促進させる正の効果もある。そこで、こうした効果を最大限に活用することで、気候変動下での安定的な作物生産につなげられる可能性があるとされる、CO2濃度上昇に適した作物開発が求められている。
世界人口の半数以上が主食とするイネの草型(くさがた)は、穂を多く生産することで収量を確保する「穂数型」と、穂は多くないものの、1つの穂に多くの籾(もみ)を生産させることで収量を確保する「穂重型」に大きく分類される。例えば、日本において長らく作付面積第1位の「コシヒカリ」は穂数型である一方、国内トップレベルの収量性を持つ「タカナリ」などの多収品種では穂重型が多い。
後者の穂重型に関わる遺伝子は、近年のゲノム研究の進歩によって特定されてきたが、穂数型に関わる遺伝子は未特定だった。研究チームによると、穂重型品種の一穂籾数(ひとほもみすう)をこれ以上増やすことは難しいが、穂数を増やすことで総籾数をさらに増加させたイネを育成する余地はあるという。そして、植物の光合成の促進が期待される将来の高CO2環境では、増加させた籾を十分に実らせ、生産性を高められる可能性があるとする。
そこで研究チームは、CO2量の上昇を伴う気候変動に適したイネの開発を目標として、穂重型の一穂籾数を維持しながら、穂数を増加させる研究に取り組むことにしたという。