ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2023年3月28日、無人の「ソユーズMS-22」宇宙船の、地球への帰還に成功した。

本来は3人の宇宙飛行士を乗せて帰還する予定だったが、昨年末に冷却剤漏れ事故が起き、熱制御システムが故障。船内温度が異常上昇する危険があったことから、無人での帰還となった。

ロスコスモスは、「仮に人が乗っていれば、船内温度は約50℃にまで達していた可能性がある」としている。

  • 地球に帰還したソユーズMS-22の帰還カプセル

    地球に帰還したソユーズMS-22の帰還カプセル (C) Roskosmos

ソユーズMS-22の帰還

ソユーズMS-22は昨年9月21日、ロスコスモスのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士とドミトリー・ペテリン宇宙飛行士、米国航空宇宙局(NASA)のフランク・ルビオ宇宙飛行士の3人を乗せ、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。

当初は今年3月に、この3人を乗せて地球に帰還する予定だったが、昨年12月に熱制御システムの冷却剤が漏れる事故が発生した。

宇宙では熱の制御が難しく、熱制御システムがなければ適切な温度に保つことはできない。そのため、この状態で宇宙飛行士が乗り込むと、船内の温度と湿度が通常より上昇し、宇宙飛行士の健康や宇宙船の搭載機器に悪影響を及ぼす危険性があることから、ロスコスモスは有人での運用を断念した。

一方で、ISSで行われた科学実験の成果物の回収のため、またトラブルの調査のために、無人で帰還を試みることが決定された。

ソユーズMS-22は3月23日18時57分(日本時間、以下同)、ISSから離脱。単独飛行を始めた。

NASAによると、ISSからより素早く離れるために、通常よりもスラスターを長く噴射したという。

そして、逆噴射や各モジュールの分離などを行い、帰還カプセルは大気圏に再突入。パラシュートを開き、20時45分にカザフスタン共和国のジェスカスガンの南東に広がる草原地帯に着陸した。

通常のミッションではドッキング解除から着陸まで約2.5時間かけているところ、今回は船内の過熱の危険性を最小限に抑えるため、55分間に短縮された。

その結果、ソユーズMS-22は無事に着陸したものの、しかしロシアの地上管制官は、「仮に人が載っていたら、船内温度はおそらく50℃に達していたかもしれません」と語っている。

また、タス通信によると、ロスコスモスで有人宇宙計画の責任者を努めるセルゲイ・クリカレフ氏は、「着陸後の初期調査では、ソユーズMS-22の温度条件は、最悪のシナリオよりは良好であることを示しています」と述べたという。今後、帰還カプセルを分析することで、より詳細な温度などがわかるとしている。

なお、今回の帰還に先立ち、3月15日から16日にかけて、ロスコスモスの宇宙飛行士3人がソユーズMS-22に乗り込み、熱制御システムが機能しない状態での飛行の試験が行われた。

試験にはプロコピエフ、ペテリン宇宙飛行士がソーコル船内宇宙服を着て参加したほか、3日に米国のクルー・ドラゴン宇宙船でISSに到着したアンドレイ・フェジャーエフ宇宙飛行士も、ソーコルを着用せずに参加した。

試験は15日21時10分から16日2時15分にかけ、約5時間行われ、船内のさまざまなシステムを起動し、各部の高温への耐久性などを確認。また、宇宙飛行士の安全のため、あらかじめ船内温度や湿度に基準が設けられ、その数値を超えた場合には即座に試験を中止することとなっていた。

試験の詳細は明らかにされていないが、NASAによると、「試験中に船内の温度が通常よりも上昇したことが確認されましたが、耐えられるレベルでした」としている。

  • 昨年12月、熱制御システムの冷却剤を噴出するソユーズMS-22

    昨年12月、熱制御システムの冷却剤を噴出するソユーズMS-22 (C) NASA TV

  • ISSから離脱したソユーズMS-22

    ISSから離脱したソユーズMS-22 (C) NASA TV

ソユーズMS-22の搭乗員は別の宇宙船で9月に帰還

ソユーズMS-22の搭乗員だったプロコピエフ宇宙飛行士、ペテリン宇宙飛行士、ルビオ宇宙飛行士の3人は、今年9月27日に別の「ソユーズMS-23」宇宙船に乗って地球に帰還する予定となっている。これにより、3人の宇宙滞在日数は371日となり、ISSでの滞在日数としては最長記録となる。また、ルビオ宇宙飛行士はNASAの宇宙飛行士としても最長となる。

ソユーズMS-23は、MS-22の事故を受け、今年2月24日に無人で打ち上げられ、26日にISSにドッキングしている。

なお、本来MS-23に搭乗する予定だった3人の宇宙飛行士は、次の「ソユーズMS-24」に乗り、9月15日にISSへ向けて打ち上げられることになっている。

ただ、今年2月11日に、無人の補給船「プログレスMS-21」でも熱制御システムからの冷却剤漏れが発生したこと、また両機の事故調査が現在も続いていることから、予断を許さない状況にある。

これまでの調査では、ソユーズMS-22は微小隕石の衝突、プログレスMS-21は微小隕石やスペース・デブリ(宇宙ごみ)などの衝突が原因である可能性が高いとし、一方で製造上の欠陥を示す証拠はないとされている。

ただ、イズベスチヤ紙は3月10日、匿名の関係者の発言を引用する形で、「ロスコスモスの一部の専門家は、製造上の欠陥が原因である可能性を排除していない」と報じている。またその場合、同時期に製造されたソユーズMS-23にも同じ欠陥があり、長期間宇宙で運用していると同様のトラブルが発生する可能性があることから、「ソユーズMS-23の帰還とMS-24の打ち上げを、それぞれ3か月程度前倒しする可能性がある」とも報じている。

11日にはインターファクス通信も、クリカレフ氏の発言という形で同様の内容を報じている。

3月24日に開かれた国家委員会の会議では、当初の予定どおり、9月にMS-23の帰還とMS-24の打ち上げを行う方針が決定された。NASAもそれを確認したとしている。

ただ、その理由については「MS-23の帰還とMS-24の打ち上げを前倒しすると、ISSに滞在する宇宙飛行士の今後のローテーションを維持することが難しいため」とされており、熱制御システムの欠陥などに関する技術的な点については触れられていない。また、ソユーズMS-22とプログレスMS-21の事故調査はまだ最終的な結論が出ていないこともあり、今後の調査や結論によっては、それぞれの帰還や打ち上げの時期、今後のISS運用計画をめぐって、もう一波乱起こる可能性もある。

  • ソユーズMS-22の搭乗員

    ソユーズMS-22の搭乗員。MS-23で帰還する。左から、フランク・ルビオ宇宙飛行士(NASA)、セルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士(ロスコスモス)、ドミトリー・ペテリン宇宙飛行士(ロスコスモス) (C) NASA/Victor Zelentsov

参考文献

https://vk.com/roscosmos
Uncrewed Soyuz Spaceship Lands in Kazakhstan - Space Station
https://tass.ru/kosmos/17387207
https://iz.ru/1480829/olga-kolentcova/orbitalnaia-distantciia-soiuz-ms-24-mogut-zapustit-na-mks-na-tri-mesiatca-ranshe-plana
http://www.interfax.ru/russia/890579