ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2023年2月14日、昨年末に冷却剤漏れ事故を起こした「ソユーズMS-22」宇宙船の、漏洩部の穴の写真を初めて公開した。

ロスコスモスは、漏洩はマイクロメテオロイド(微小隕石)の衝突が原因で起きたとの見解を示しており、この穴はそれを裏付けるものだとしている。

一方で、先日「プログレスMS-21」補給船でも冷却剤漏れが起きたことを受け、ソユーズMS-22を代替するために今月20日に無人で打ち上げ予定だった「ソユーズMS-23」について、打ち上げを延期することも発表された。

同様の事故が相次いで発生したことで、微小隕石ではなく技術的な問題が原因だったのではという声もあがっており、今後の対応が注目される。

  • ロスコスモスが公開した、ソユーズMS-22に開いた穴の写真

    ロスコスモスが公開した、ソユーズMS-22に開いた穴の写真。この穴は微小隕石が衝突してできたものであり、そこから熱制御システムの冷却剤が漏れたと考えられている (C) Roskosmos

ソユーズMS-22の冷却剤漏洩

ソユーズMS-22は2022年9月21日に打ち上げられた宇宙船で、ロシアのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士とドミトリー・ペテリン宇宙飛行士、米国のフランク・ルビオ宇宙飛行士の3人を国際宇宙ステーション(ISS)に送り届けた。

当初は今年3月に、この3人を乗せて地球へ帰還する予定だったが、12月15日に熱制御システム(ラジエーター)の冷却剤が漏れ出す事故が発生。冷却剤はすべて失われ、熱制御システムは機能しなくなった。

ロスコスモスで有人宇宙計画の責任者を務めるセルゲイ・クリカレフ氏は今年1月、これまでの調査で、漏洩の原因について、マイクロメテオロイド(微小隕石)が衝突し、冷却剤が流れる配管に穴が開いたためとみられると発表。地上での再現実験でもそれを裏付ける結果が出たとした。

一部では製造・組み立て時のミス、欠陥による品質不良を疑う声もあったが、クリカレフ氏は「組み立て時の記録などを調査した結果、品質不良を裏付けるものはなにもありませんでした」と説明。共同で会見したNASAの担当者も、「すべての情報が、微小隕石が衝突した可能性を示しています。これまでのところロスコスモスと見解は一致しています」としていた。

ところが今年2月11日になり、ISSにドッキング中の「プログレスMS-21」補給船からも冷却剤漏れが発生。原因は調査中だが、状況などはソユーズMS-22ときわめてよく似ており、前代未聞の出来事に混乱が広がっている。

こうしたなか、ロスコスモスは2月14日、ソユーズMS-22の漏洩部に開いた穴の写真を初めて公開した。ロスコスモスは、「この写真に写っている穴は、外からなにかが衝突したことを証明するものです」と説明している。

ロスコスモスでは写真を公開することで、事態の沈静化を狙う意図があるものとみられる。

またロスコスモスでは、プログレスMS-21についても漏洩が起きたとみられる場所の写真を撮影し、分析を行いたいとしている。

  • 昨年12月に発生した、ソユーズMS-22からの冷却剤漏れの様子

    昨年12月に発生した、ソユーズMS-22からの冷却剤漏れの様子 (C) NASA TV

代替船ソユーズMS-23の打ち上げは延期

ロスコスモスはまた、2月20日に予定していた「ソユーズMS-23」の打ち上げを3月まで延期することも発表した。

今年1月にロスコスモスは、ソユーズMS-22の熱制御システムが機能しなくなったことから、緊急時以外は宇宙飛行士を乗せないことを決定。代わりに、新しいソユーズMS-23を無人で打ち上げ、プロコピエフ宇宙飛行士ら3人は乗り換えて地球に帰還するとしていた。

当初、その打ち上げ日は2月20日とされていたが、プログレスMS-21でも冷却剤漏れが起きたことを受け、「原因を判明させる必要があることから、ソユーズMS-23の打ち上げを2023年3月まで延期することを決定した」としている。

このことは、プログレスMS-21の事故、そしてソユーズMS-22の事故も同様に、製造や組み立て時の不具合が原因だった可能性が否定しきれないということを示唆している。

わずか2か月の間に、異なる宇宙機のほぼ同じ場所に、同じように微小隕石が衝突し、同じような事故を引き起こすということは確率的に考えにくい。もし高確率で起こるのであれば、それ以前にも起きていなければ説明がつかない。くわえて、ここ最近ISS周辺に飛来する微小隕石やデブリが増えたということも観測されていない。仮に増えているとしても、熱制御システムより先に太陽電池パドルなど、より面積が大きな構造物に衝突する可能性のほうが高い。

一方で、製造や組み立て、試験時の問題――たとえばマニュアルの不徹底、裏マニュアルの習慣化、欠陥を抱えたロットの部品、部材の使用、熟練技術者の退職など――が原因であれば、短期間のうちに同じ事象が生じた理由の説明はつきやすい。

このため、もしソユーズMS-22とプログレスMS-21が同じ技術的な理由で事故を起こしたのであれば、同時期に製造されたソユーズMS-23でも起こる可能性があり、ロスコスモスはその点を懸念し、慎重に調査しているとみられる。

なお、ソユーズ宇宙船は緊急脱出挺としての役割も担っており、ISSで重大な事故などが起きた際には、宇宙飛行士は自分たちが乗ってきた宇宙船に乗って脱出することになっている。前述のようにソユーズMS-22の熱制御システムは故障しているものの、ソユーズMS-23が到着するまでは、ソユーズMS-22は引き続き緊急脱出挺として使われる。

またその場合には、ソユーズMS-22に乗るのはロシアのプロコピエフ、ペテリン宇宙飛行士の2人だけで、もうひとりのクルーであるNASAのルビオ宇宙飛行士は、ISSにドッキング中のクルー・ドラゴン宇宙船運用5号機(Crew-5)に乗せ、分ける形で対処するとしている。

熱制御システムが故障したソユーズMS-22は、その状態で3人の宇宙飛行士が乗り込むと船内温度は最大40℃に、湿度も通常より高くなることから、宇宙飛行士の健康はもとより搭載機器への悪影響も考えられ、安全に運用を行うことは難しい状態にある。ただ、2人だけであれば熱負荷が軽減でき、温度や湿度が限界まで上がるまでに余裕が生まれるため、緊急時に限って2人を乗せて飛行するのは問題ないとしている。

  • ISSに停泊中のプログレスMS-21

    ISSに停泊中のプログレスMS-21 (C) NASA

参考文献

https://vk.com/roscosmos
Roscosmos Reviews Soyuz, Progress Vehicle; Science and Cargo Ops Keep Crew Busy - Space Station