ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは2023年2月24日、無人の「ソユーズMS-23」宇宙船の打ち上げに成功した。

同船は2日後に国際宇宙ステーション(ISS)に到着。昨年末に冷却剤漏れ事故を起こして故障した「ソユーズMS-22」宇宙船の代わりとして、3人の宇宙飛行士の地球帰還に使用される。

  • 国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングするため接近するソユーズMS-23宇宙船

    国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングするため接近するソユーズMS-23宇宙船 (C) NASA TV

ソユーズMS-23

ソユーズMS-23は「ソユーズ2.1a」ロケットに搭載され、日本時間2月24日8時24分(モスクワ時間同日2時24分)、カザフスタン共和国にあるロシアのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。ロケットは順調に飛行し、約9分後に所定の軌道に投入された。

その後、約2日間かけて軌道を変更しISSに接近。そして26日9時58分、ISSの「ポーイスク」モジュールにドッキングした。

ソユーズMS-23は今年9月ごろまでISSにドッキングし続けたのち、ISSに滞在しているロスコスモスのセルゲイ・プロコピエフ宇宙飛行士とドミトリー・ペテリン宇宙飛行士、米国航空宇宙局(NASA)のフランク・ルビオ宇宙飛行士の3人を乗せ、地球に帰還することになっている。

この3人は昨年9月、ソユーズMS-22宇宙船でISSに到着した。当初は今年3月に、MS-22に乗って地球に帰還する予定だったが、12月に同船の熱制御システムの冷却剤が漏れる事故が発生した。熱の制御ができなくなったことで、宇宙飛行士が乗り込むと船内の温度と湿度が通常より高くなり、宇宙飛行士の健康や宇宙船の搭載機器に悪影響を及ぼす危険性があることから、安全に飛行できない状態となった。

これを受け、ロシアは急きょ、ソユーズMS-23を無人で打ち上げることを決定。MS-23は当初、今年3月に新しい3人の宇宙飛行士を乗せて打ち上げられる予定だったが、無人かつ準備作業を前倒しで進めたことで早期の打ち上げが実現した。

なお、ISSに停泊中のソユーズは、ISSで大きな事故が発生した際の緊急脱出挺としての役割ももっており、これまでは故障したソユーズMS-22を使わざるを得ない状態だった。

もっとも、緊急時にソユーズMS-22に乗り込むのはロシアの宇宙飛行士2人だけで、NASAのルビオ宇宙飛行士はスペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船運用5号機で帰還することとなっていた。ロスコスモスは、「2人だけ搭乗するのであれば、ソユーズMS-22の熱負荷が軽減でき、温度や湿度が限界まで上がるまでに余裕が生まれるため、緊急時に限れば問題ない」としていた。

いずれにしても不安の残る状態が続いていたが、ソユーズMS-23が到着したことでそれが解消されることとなった。

ロスコスモスとNASAでは、ソユーズMS-22やプログレスMS-21の一連の事故を通じて、ISSに滞在中の若田光一宇宙飛行士らが危険にさらされることはなかったとしている。

  • ソユーズMS-23を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ

    ソユーズMS-23を搭載したソユーズ2.1aロケットの打ち上げ (C) Roskosmos

冷却剤漏れの原因は「マイクロメテオロイドの衝突」

ソユーズMS-22の冷却剤が漏れた原因については、船体にマイクロメテオロイド(微小隕石)が衝突し、冷却剤が通るパイプに穴が開いたことが原因と考えられている。

ただ、2月11日には、ISSにドッキング中の「プログレスMS-21」補給船でも同じような冷却剤漏れが発生。両者の原因が共通している可能性が否定できず、またソユーズMS-23でも同様の事態が発生する可能性も否定できなかったことから、ロスコスモスでは一時、ソユーズMS-23の打ち上げを3月以降に延期すると表明していた。

その後、ソユーズMS-22とプログレスMS-21について調査が行われた結果、ともに「外部への影響(衝突)」とほぼ断定。製造・組み立て時のミス、部品の欠陥など技術的要因によるものではないとされた。またソユーズMS-23の熱制御システムを二重三重に検査した結果、問題も見つからなかったことから、2月中の打ち上げが実現した。

ちなみに、ソユーズ宇宙船が無人で打ち上げられるのは異例で、2019年8月の「ソユーズMS-14」以来となる。このときは、新しいソユーズ2.1aロケットを使ってソユーズ宇宙船を打ち上げるための各種試験を目的に無人で打ち上げられた。

なお、故障したソユーズMS-22については、3月下旬にも無人でISSから分離し、自動で飛行して、地球への帰還を試みることとなっている。ソユーズは帰還カプセルのみが着陸でき、故障した熱制御システムがある機械モジュールは再突入時に燃え尽きるが、ロスコスモスでは帰還カプセル部分に残っているデータなどを取り出し、事故が起きた際の状況などの分析に役立てるとしている。

一方、プログレスMS-21はすでに2月18日にISSを離れ、ISSから外観の写真撮影と検査を行ったのち、19日に軌道を離脱、大気圏に再突入し処分されている。

  • ロスコスモスが公開した、ソユーズMS-22に開いた穴の写真

    ロスコスモスが公開した、ソユーズMS-22に開いた穴の写真。この穴は微小隕石が衝突してできたものであり、そこから熱制御システムの冷却剤が漏れたと考えられている (C) Roskosmos

参考文献

https://vk.com/roscosmos
Uncrewed Replacement Soyuz Docks to the Space Station - Space Station