九州大学(九大)と木の家の健康を研究する会の両者は3月30日、スギ材の香り成分が、ヒトの脳が視覚的な変化を検出する際の脳機能を高めることを、脳波による神経生理学的実験によって明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、九大大学院 農学研究院の中島大輔特任助教、同・清水邦義准教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本木材学会の欧文機関誌「Journal of Wood Science」に掲載された。
近年、スギ材から揮発する香り成分が、ヒトにリラックス効果を与えることが複数の研究で報告されている。しかし、知覚レベルで脳にどのような変化が起こっているのかは未解明だったという。そこで研究チームは今回、天然スギ材を内装材に用いた部屋と、木材と見た目を似せた木目調樹脂系建材を内装材とした部屋を用意し、その中で被験者に数種類の単純な刺激画像を連続的に見せながら脳波を測定することにしたとする。
今回の実験では、刺激画像に対する「事象関連電位」が解析された。事象関連電位とは、見る・聞く・判断するなど、ヒトにとっての知覚的・認知的なイベントが起きた瞬間を0ミリ秒として、そのイベント後の脳波の電位変化をミリ秒オーダーで解析することで、知覚機能および認知機能の脳内メカニズムの変化を解読する手法だ。
測定の結果、画像の角度をわずかに変化させてまれに出現させた視覚刺激に対する、被験者の脳内視覚野ニューロンによる変化の自動的な検出反応は、スギ内装材の部屋に滞在している時の方が大きいことが確認された。また、スギ内装材室の揮発性成分(香り成分)を調べた結果、「セスキテルペン類」の濃度が高いことが判明したとする。
なおセスキテルペン類とは、3つのイソプレン単位から構成されているC15の基本骨格を持つテルペン類の総称だ。乾燥スギ材の主要揮発成分として、δ-Cadinene、α-Muuroleneおよびcis-Calameneneなどのセスキテルペン類が報告されている。
研究チームはこのことから、スギ内装材から揮発したセスキテルペン類は、見た目のわずかな違いに対する「気づき」によって起こる脳の自動的な反応を高めることが明らかになったとする。
今回の発見により、木材の香りが知覚レベルで脳機能を変化させる一端が明らかになり、木材から揮発する香りの脳科学的機能性解明の進展が期待されるとした。また、実生活のさまざまな居住環境、作業環境、各種支援・教育・トレーニング環境などにおける建築材料への脳科学的機能性付加と高付加価値化につながることも期待されるとしている。