日本オラクル、富良野市、北海道大学は3月28日、3者が産官学で進めているプロジェクト「北海道富良野市のスマートシティ推進支援」の最終報告会を開催し、メディア向けに公開した。
同プロジェクトは、北海道大学博士課程DX教育プログラムに参加している大学院生らが、富良野市が抱える課題の解決に挑むもの。オラクルのクラウドサービスを活用してさまざまなデータ分析や可視化を行った。そして、現地での視察やヒヤリングを通じて施策を練り上げ、富良野市に対して提案を行うといったプロジェクトだ。今回の報告会は、最終プレゼンを発表する場となった。
課題のテーマは、「富良野市民の省エネ行動変容によるカーボンニュートラルの促進」と、「富良野スキー場の若年層の顧客開拓」の2つ。学生らは「環境チーム」と「観光チーム」に分かれ、それぞれの課題に対する施策を提案していた。どのような提案を行ったのだろうか。
早速、環境チームの発表から紹介していこう。
環境チーム「市民一人ひとりにハチドリになってもらう」
環境チームの学生らが提案したのは「市民一人ひとりにハチドリになってもらう」ということ。市民一人ひとりの小さなエコ活動を推進するための施策を提案した。ある森の火事に対してハチドリが水のしずくを1滴ずつ運ぶ、南米のアンデス地方に伝わる『ハチドリのひとしずく』という童話からコンセプトの着想を得たという。
具体的には、市民が行う「エアコンの温度を調整する」「電球をLDEに変更する」といった小さなエコ活動を後押しするため、市役所や事業者が、光熱費を削減したり、ポイントを還元したり、イベントや教育機会を提供したりするといった施策だ。
また、古着の購入や衣料品の回収といった省エネ活動を促進するため、フリーマーケットを開催するなど、省エネ活動によるイベント誘致などで、市役所や事業者にも恩恵を与えるような循環サイクルを提案。加えて、CO2の減少量や削減費用などの情報を集計して市内外に発信することで、市民の意識向上や、外部との連携もつなげる構図だ。
IPCCのデータによると、北海道の平均気温は21世紀末には5℃上昇する見込みで、北海道の発展を支えてきた農業やスキー観光が大きな打撃を受けることが懸念されている。富良野市の独自調査によると、道民の約半数がカーボンニュートラルに対して「意識していない」と回答している。
そして、カーボンニュートラルにつながる行動のために道民が求めていることは、約5割が「カーボンニュートラルに寄与する対象商品の購入やサービス利用時にポイントがたまり、利用できること」と回答。学生らはこうしたデータから、カーボンニュートラルの取り組みに対する「付加価値」の提供により、富良野市民の行動変容を促すことができるのではないかと結論付けた。
環境チームの学生の発表を受け、日本オラクル 執行役員 クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括の本多充氏は「一人ひとりの行動変容を促すナッジ理論を取り入れた実現性の高い発表だった」と、フィードバックしていた。
観光チーム「夏に来た人に冬も来てもらう」
一方の観光チームの発表はどうだろうか。
観光チームの課題のテーマは「富良野スキー場の若年層の顧客開拓」。同チームが提案した施策は「夏に来た人に冬も来てもらう」といったアプローチだ。
冬季の観光客数が減少傾向にある富良野市。富良野市=ラベンダー(夏)のイメージが強く、冬のイメージがないことを学生らは問題視した。一方で、富良野市の観光客数自体は年間150~200万人と多く、観光客との接点はすでに確保できている。学生らはこの事実に着目した。
観光チームの提案は、「夏の観光客に対して、冬のコンテンツを割引クーポンを配布する」というものだ。
夏に宿泊施設やラベンダー畑を訪れた観光客に、富良野スキー場や歓寒村、犬ぞりといった冬のコンテンツを知る機会を提供する。加えて、クーポン利用者のデータを収集して属性ごとに分析するといった、データを収集する枠組みにもなると、学生らは主張した。
さらに、“冬の"ラベンダー戦略についても説明。これは、雪が積もった富良野スキー場をラベンダー色にライトアップすることで、冬もラベンダー目的で富良野に来てもらうための施策とのことだ。
環境チームの学生の発表を受け本多氏は、「『スキー人口を増やしたい』ではなく、『観光客を増やしたい』という富良野市のニーズを捉えた発表だった」とフィードバック。
また富良野市 副市長の稲葉武則氏は、「目から鱗が落ちるような素晴らしい提案だった。発表で終わることなく、現在富良野市が進めている施策と連携するなど、実現化させていきたい」と、感想を述べていた。
日本オラクル、富良野市、北海道大学の3者は2022年10月に、富良野市のスマートシティ推進への施策を共同で立案することを目的として産官学連携協定を締結している。同協定の有効期限は締結日から3年間とし、3者から解約の申し出がなければ、同一内容で1年間ごとに更新していく考えだ。