CuO/t-ZrO2(tは正方晶の意味)の有用性を実証するために、今回の研究ではイミダゾールとフェニルボロン酸のカップリング反応が検討された。5mol%の触媒を用いたところ、空気中・50℃という反応条件では8時間後に81%の収率でカップリング体が得られた。

一方、一般的な酸化銅を触媒とした場合は反応がほとんど進行せず、担持銅触媒であるCuO/TiO2触媒では23%収率に留まったという。また、ジルコニア担持銅触媒「CuO/m-ZrO2」(mは単斜晶の意味)での収率は42%であり、銅固溶体触媒の方が優れていることが確認された。一方、別の銅固溶体触媒である銅-アルミナ触媒「CuO/Al2O3」では収率は32%だったことから、ジルコニアが触媒の材料として優れていることが判明したとする。

そこで、CuO/t-ZrO2がほかの触媒に比べて優れた触媒性能を示す要因を明らかにするため、水素による昇温反応法を用いて、触媒中の銅(Cu2+)の還元性が測定された。その結果、CuO/t-ZrO2は還元されやすい銅(150℃までの低温域で還元されるCu2+)のみが存在するのに対し、ほかの銅触媒では還元されにくい銅(200℃以上の高温域で還元されるCu2+)が大半を占めていることがわかった。また、目的生成物の収率に対して還元されやすい銅の比率をプロットしたところ、比例関係にあったとする。このことから、銅の還元されやすさが触媒性能の高さに重要な役割を果たしていることが示唆された。

さらに研究チームは、CuO/t-ZrO2の構造を解明するため、X線回折法やX線吸収分光、DFT計算を用いた解析を行った。すると、一般的な酸化銅(八面体構造のCuO6)とは異なり、平面四配位構造を形成していることが明らかにされ、このような特異的な構造も、触媒反応を促進していることが確認されたという。また、CuO/t-ZrO2を用いることで、さまざまなイミダゾール誘導体を合成できることも確認された。

  • (左)不均一系銅触媒の例。(右)DFT計算によるCuO/t-ZrO2の表面構造解析。側面図(a)、[CuO4]の構造(青:Cu、緑:Zr、赤:O)

    (左)不均一系銅触媒の例。(右)DFT計算によるCuO/t-ZrO2の表面構造解析。側面図(a)、[CuO4]の構造(青:Cu、緑:Zr、赤:O)(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の研究では、温和な条件下でのCuO/t-ZrO2による有機分子のカップリング反応が初めて見出され、さらに高い反応活性の要因を特定することにも成功した。

だがその一方で、触媒の汎用性や再利用性を見据えると、さらなる材料探索による高性能化が必要だという。研究チームは今後、銅とジルコニアの比率を変えた触媒や、ほかの還元性の高い銅触媒を用いて、より優れた触媒の探索を行うことを考えているとした。さらに、銅以外の金属を用いたジルコニア触媒を開発し、さまざまな精密有機合成反応にも展開させていく予定だとしている。