D-T反応で必要とされるプラズマの温度が1億℃であるのに対し、p-11B反応は極めて高い温度が必要であり、実現が難しい反応と考えられている。ただし、高エネルギーのビームを使うことで実現できる可能性があるという。p-11B反応を効率よく起こすためには、pを時速1500万kmもの速さで11Bに衝突させる必要がある。

核融合研では、プラズマを加熱するため、時速1500万kmを超える速さの軽水素をプラズマに入射するLHDのための装置を独自開発してきた。また、高温プラズマを制御するために、プラズマにホウ素の粉末をふりかける装置も設置済みだ。これらを組み合わせることで、磁場閉じ込めプラズマ中でp-11B反応が実現できる可能性があるとする。

p-11B反応によって生成されるのが、高エネルギーのヘリウムだ。反応の実証には、そのヘリウムを検出する必要がある。そのため、核融合研の小川准教授らは、これまでのLHDにおける高度な実験研究によって信頼性が確認されていた数値シミュレーションを用いて、発生するヘリウムの数と磁場の影響によって複雑な動きをするヘリウムの軌道の予測を実施。また、高エネルギーのヘリウムが飛来する予定のプラズマの表面近くには、TAE Technologiesが製作した検出器が設置された。

そして、ホウ素をふりかけたプラズマに高エネルギー軽水素ビームを入射する実験を行った結果、予測どおり、p-11B反応によって生成された高エネルギーヘリウムの検出に成功したという。研究チームはこれにより、磁場で閉じ込めたプラズマ中においてp-11B反応が世界で初めて実証されたとしている。

  • 時速1500万kmを超える速さのpイオンと、粉末落下装置によってプラズマ中に落下させた11Bを使って核融合反応を起こし、その生成物の高エネルギーヘリウムイオンが検出された

    時速1500万kmを超える速さのpイオンと、粉末落下装置によってプラズマ中に落下させた11Bを使って核融合反応を起こし、その生成物の高エネルギーヘリウムイオンが検出された(出所:核融合研Webサイト)

pと11Bから高エネルギーヘリウムを生成する核融合反応は、放射線である中性子が生成されないため、よりクリーンな核融合炉を将来的に実現できる可能性がある。今回の研究成果は、よりクリーンな磁場閉じ込め核融合炉実現のための大きな第一歩であるといえる。研究チームは今後、p-11B反応をより深く理解するための計測器開発、および生成された高エネルギーのヘリウムの閉じ込め特性研究などを推進していくとした。