京都大学(京大)は3月7日、「高温超伝導誘導同期モータ」(HTS-ISM)を対象にして、同モータの巻線を高温超伝導体と常伝導体のハイブリッド構造にすることで、温度上昇に伴って室温になっても出力を低下させた上で連続駆動することに成功したと発表した。

同成果は、京大大学院 工学研究科 電気工学専攻の中村武恒特定教授、イムラ・ジャパン(イムラ)、三菱重工業(三菱重工)の共同研究チームによるもの。詳細は、京大とイムラの共同研究成果については、2022年10月にハワイで開催された応用超伝導会議「ASC'22」において発表され、雑誌「IEEE Transactions on Applied Superconductivity」にも採録された。また京大と三菱重工との共同研究成果は、2022年11月29日から12月1日まで名古屋市およびオンラインで開催された国際超伝導シンポジウム「ISS2022」にて発表された。

日本において、電力の多くは発電機によって供給されており、また電力消費の55%以上はモータによるものである。つまり、すべての回転機(発電機やモータ)の効率を平均1%でも改善できれば、極めて大きな省エネ効果や低炭素効果を実現できることになる。

その効率改善を達成する旗手として期待されているのが、高温超伝導材料だ。超伝導であれば電気抵抗がゼロとなるため、非常に大きな密度の電流を流せる。つまり、巻線に高温超伝導体を用いれば、モータにおいて極めて大きなトルクや出力、高効率化、小型軽量化などを実現可能だ。

しかし、"高温"とはいうもののあくまでも比較の話であり、高温超伝導モータで超伝導を維持するには、およそ-200℃以下の極低温環境が必要となる。つまり、室温環境で同モータを運転するには、極めて強力な冷却装置に頼る必要があり、もし冷却装置が故障して超伝導状態を維持できなくなった時は、非常に危険だ。蓄えていたエネルギーが一気に放出され、焼損や爆発が起きてしまうからである。このような事故が運転中の自動車や船舶、航空機などで起これば甚大な事故に直結する危険性があり、安全性の点で実用上の大きな足かせとなっていた。

高温超伝導体を用いたHTS-ISMは、世界的に最も汎用されているかご形誘導モータと同様の構造を有しており、ほかの超伝導モータよりも単純な構造で、かつ低コストで実現可能なことを優れた点としている。しかし最大の特長は、かご形の回転子巻線に、高温超伝導体/常伝導体を並列化したハイブリッド構造(ハイブリッドかご形巻線)とすることで、上述した焼損や爆発の危険性を解決した点だろう。