東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は12月6日、水星より内側の太陽に近い領域において、高精度な原子時計を量子センサとして用いて物理定数の振動的な変化を検出することで、「超軽量ダークマター(ultralight dark matter, ULDM)」を検出する新しい方法を提案したことを発表した。

同成果は、Kavli IPMUのジョシュア・イービー特任研究員を中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

宇宙に存在するすべての物質のうち、我々が何らかの方法で観測が可能な物質はわずか20%弱と見積もられている。残りの80%以上は、通常物質とは重力以外ではほぼ相互作用しないため、長らく正体不明のダークマターだ。これまで長い時間をかけて、数多くの研究者がいくつもの仮説を立て、そして現在進行形のものも含めて数多くの実験によって検出が試みられてきたが、今のところその正体はまったくわかっていない。

ダークマターは極めて希にだが、通常物質と反応する(通常物質の原子核などと衝突する)可能性があるという。そのため、検出にはダークマターの密度が重要性をもつと考えられている。密度が高ければ、それだけ検出器に捉えられる確率が上がるからだ。ダークマターの仮説モデルの中には、場所によって密度に違いがある(特定の場所で高い)とするものもある。

ダークマターの検出において、特に重要なのが原子や原子核を用いた実験的探索だという。その理由は、ダークマターの検出が可能なほど非常に高い感度が達成されているからだ。その例としては、ダークマターの質量が非常に小さい場合に、その物質波としての性質により、自然界の物理定数に振動的な変化がもたらされる場合が挙げられるとする。つまり、電子の質量や電磁気力の微細構造定数などが、瞬間的に極めて微かながら変化するということだ。その結果、原子内部の遷移エネルギーが変化し、現代の技術であればそれを捉えられる精度があるということである。

そうした中、研究チームは今回、ダークマターによる遷移エネルギーの振動的な変化を検出する方法として、特に、水星の軌道(平均公転半径は約5800万km)よりも内側の太陽に非常に近い領域に注目したという。太陽の近傍領域はULDMの密度が非常に高い可能性があり、もしそれが正しければダークマターに対する感度が特別に高くなるからだ。

  • ダークマターの解明に使用する宇宙原子時計のイメージ。図中のパーカー・ソーラー・プローブのような、太陽近傍に接近できる探査機に搭載することで、ULDM探索が可能となる見込みだ

    ダークマターの解明に使用する宇宙原子時計のイメージ。図中のパーカー・ソーラー・プローブのような、太陽近傍に接近できる探査機に搭載することで、ULDM探索が可能となる見込みだ(出所:Kavli IPMU Webサイト)