クリックテック・ジャパンは3月7日、オンラインで2023年度事業戦略説明会を開催した。説明会には米国本社からQlik CPO(最高製品責任者)のジェームズ・フィッシャー氏が出席したほか、大日本印刷(DNP)の導入事例が紹介された。
Qlikが提唱する「アクティブインテリジェンス」
はじめに登壇した、クリックテック・ジャパン カントリーマネージャーの今井浩氏は「昨年はパンデミックから回復が見えてきたものの、物価高騰や為替変動、紛争、自然災害など目まぐるしく環境が変化する不確かな時代は続いており、常態化している。このような状況において、より確かなアクション・行動が必要になっており、データドリブン経営の必要性が強まっている」との認識を示す。
データドリブン経営について、リアルタイムで起きていることを、誰でもすぐに安全に使える正しいデータで、必要な人が必要な時に気付き、予測して迅速に行動することが求められると同氏は語っている。
ともすれば、こうした行動が確かな行動であるとともにデータドリブンのあるべき姿であるという。それを実現するために同社が提唱しているビジョンおよびプラットフォームがBI(ビジネスインテリジェンス)の次のステップ「アクティブインテリジェンス」だ。このアクティブインテリジェンスの考え方を反映しているものが「Qlik Cloud」となる。
Qlik Cloudとは
Qlik Cloudは、リアルタイムにデータを収集・統合し、適切なフォーマットに加工・編集する「データ統合」、AutoMLなどを備えてインサイトを提供する「データ分析」で構成し、社内外における基幹システム、部門システムのデータを広範囲に接続することを可能としている。
また、広範囲にデータをリアルタイムに収集・統合、標準化しながらリネージ機能などでデータの確からしさを担保し、カタログでエンドユーザーに分かりやすく見せる。さらに、AIや機械学習を用いて即座にデータドリブンな気づきに変換し、アラート、アプリケーション自動化で行動に変え、日常のオペレーションに組み込むことでユーザーは意識することなく、気が付いたらデータドリブンなアクションをとることができるという。
今井氏は「アクティブインテリジェンスが意識しているのは『データファブリックの実現』と『AI・データ活用の民主化』だ」と述べている。
データファブリックの実現については、複数のデータ発生源とデータ活用者を1対1ではなく、n対nのデータエンドポイントを「糸ではなく織物のように網の目でシームレスにデータパイプラインを実装するイメージ」(今井氏)であり、データ統合の進化形だという。
AI・データ活用の民主化に関しては、AIによる自動的なリアルタイムデータ分析の進展より、AutoML技術により必ずしもデータサイエンティスの力を借りずともエンドユーザーがAIモデルを構築できるようになっているほか、運用後もデータの質・量の変化に合わせてチューニングすることが容易となっている。そのため、データ分析の自動化とビジネスの最適化が進むことで、AI・データ活用の民主化も進むとの見立てだ。
Qlik Cloudの製品戦略
続いて、フィッシャー氏がQlik Cloudの戦略について説明した。まず、前提として同氏は「昨年はパンデミックの状況や経済、地政学的な観点で不確実性があったが、2023年は確実性を持てるようになりつつある。しかし、不況やインフレ、ウクライナ紛争など確信的な状況に向き合わなければならず、組織にとって危機への対応は重要な能力だ。対応できている組織はデータドリブン、AIによる意思決定、レジリエント(回復力)を備えている」と述べた。
そして、2023年のBIとデータのトレンドについて、投資はもちろん重要ではあるものの、意思決定と統合への向上がカギを握ると同氏は指摘。
フィッシャー氏は「意思決定の正確さを磨き、スピード・スケールを伴わなければならず、予期せぬ出来事に反応・適応し、予測することにつなぐ必要がある。統合への向上に関しては、断片化した世界に対応するため分散したデータにアクセスし、組み合わせて監督するコネクテッドガバナンスを実現することが望ましい」との認識だ。
Qlikでは時間とコストの効率化をふまえて、ユーザーの現実に即した製品戦略を備えるとともに、クラウドを組み入れたベストな製品を提供しているという。
同社のプロダクトビジョンはクラウドオンリーではない「SaaS主義」、ユーザーが望む場所にデータを格納できるようにする「データ主義」、「顧客優先主義」の3つの基本理念にもとづいている。
このような製品戦略のもと、データ統合、データ分析にまたがるさまざまなユーザーのユースケースをサポートするプラットフォームとしてQlik Cloudを提供しているというわけだ。
Qlik Cloudについてフィッシャー氏は「ネイティブなクラウドファーストのアーキテクチャで構築しているが、クラウドにとらわれることなく、ユーザーのあらゆるデータソース、オペレーティングシステムで稼働する設計としている。市場調査とフォードバックを原動力にイノベーションパイプラインを構築しており、80%以上がカスタマーフィードバックをもとにしている。ユーザーが新機能を利用したら、使用状況を把握して将来に役立てている」と説く。
3つの重点投資分野
今後のQlik Cloudにおける重点投資分野は「データ統合」「分析」「基盤サービス」の3だ。データ統合は、iPaaS(Integration Platform as a Service)向けのデータ統合機能を提供し、自動データ移動と高度な交換を備えたリアルタイムエンタープライズファブリックを実現するとしている。
分析ではAIや機械学習を利用して最適なインサイトを発見し、ビジュアライゼーションで提示する分析機能をスケーラビリティとパフォーマンスの最適なサポートともに提供するという。
基盤サービスでは、データパイプラインの接続性と自動化を促進し、クラウドの移行を可能にするように設計されたデータ統合と、分析の両ユーザーのためのソリューションを提供していく考えだ。
具体的には、クラウドアプリケーションデータへの接続性や、サードパーティデータを含む拡張性のあるプッシュダウンELT(抽出、受け取り、変換)、分析ユーザーのスキルアップ、機械学習モデルの生成などを行う「Qlik AutoML」、ワークフローへの組込み・自動化などを挙げていた。
また、2023年に提供予定の機能について、フィッシャー氏は「アナリティクスのライフサイクル全体でAIやデータインテグレーションの機能が使えるようにしていく。さらに、オンプレミスで利用しているユーザーに向けても新しい機能の提供を考えている」と展望を語っていた。
DNPの導入事例
最後に大日本印刷(DNP) 情報イノベーション事業部の鶴田博則氏が同社における導入事例を解説した。
同社では営業、業務、生産の3つの領域でDXを進めている。営業ではノウハウが担当者に属人化されたまま蓄積されていく従来のワークスタイルを見直し、マネジメント層が営業結果の結果に終始することなく、プロセス自体をマネージしていく体制を整備している。
また、業務では業務委託先の協力会社への見積依頼から注文、納品、請求、支払いまでの業務プロセスをデジタル化し、業務の負荷を軽減。生産ではデータドリブン経営の具現化するため第1歩として「Qlik Sense」を活用したデータ分析基盤を構築している。
DNPは、2009年からQlikViewの販売代理店として取り組みをスタートした。2015年にQlik Senseの販売開始、2019年に自社でDXの取り組みが始まったことを契機にQlik Senseの自社利用の検討を開始しており、2020年には自社利用に向けたPoC(概念実証)、2021年からは本格利用を開始し、2023年にユーザー数は3500人を突破。
鶴田氏は社内におけるQlik展開のための取り組みとして「各部門で行っている取り組みを持ち寄り、情報交換を行うテーマ共有会やQlikを始めたい部門の開発者向けにハンズオンセミナーを実施した。また、開発者向けによろず相談室を開催し、情報システム部門とQlikの技術チームが開発者の相談を受けるようにするなど、全社的なデータ活用を進めている」と話す。
Qlik導入の効果と今後の展開
こうした地道な取り組みにより、バックオフィス、製造、システム運用など、さまざまな部門で効果が出始めている。
バックオフィスでは、合理的な人員配置とするため管理職による人員のアサインについて、多角的な視点での人員配置や担当者のスキルアップへの活用につなげている。今後、スキルアップの機会提供や人材配置に活用し、タレントマネジメントを実現していくという。
また、製造部門では素材ロスを解消するための原因究明と改善をねらい、Qlikを活用したところ、原因を突き止めて対策を実施できたことから、電力消費や不良品対策など、そのほかの製造過程にも展開していく考えを示している。
さらに、システム運用では、保守運用業務の高度化と属人化の解消を図るため運用保守業務を分析。これにより、工数を95%削減できたため先手を打った保守運用を可能としており、将来的には対応可能人材の拡大を予定している。
今後について、鶴田氏は「経営層向けのダッシュボード構築や分析を対象とする部門・サービスを横断し、データドリブン経営を加速していく。加えて、勉強会の定期開催やグループ企業への提供も検討し、社内活用の高度化を目指す。これらにより、データドリブン経営を確立していく」と最後を締めくくった。