京セラが短共振レーザーやマイクロLEDの製造工程を大きく変える可能性を持つ技術を世界最大の光学・フォトニクスの国際会議「SPIE Photonics West 2023」(1月28日から2月2日に米サンフランシスコにて開催)で発表した。
会議最終日の最終講演で2件の講演を行い、1件目(論文番号12421-82)はGaN系マイクロ光源を製造するためのプラットフォームとなる技術で、これまでサファイア基板を用いていた工程をSi基板でも可能にする技術である。2件目(論文番号12421-83)は、この技術を応用して作成した共振器長100μmの微小サイズの端面発光型レーザーダイオードを試作した内容である。これによって、ARグラスに用いる際に重要な低消費電力の微小出力を有する光源を作ることが可能になる。
GaN系マイクロ光源製造のプラットフォームとなる独自基板EGOS
今回開発したエピタキシャル横方向過成長A-ELO(Advanced Epitaxial lateral overgrowth)では、サファイア基板上から成長させたGaN層を横方向に結晶成長させることにより、欠陥密度の低い厚み5μm以下の薄膜層を形成することができ、この低欠陥薄膜領域に短共振器レーザーやマイクロLEDなどのデバイスを作成することで発光効率などの特性を向上させることが可能になる(図1、図2)。
低欠陥の薄膜層は下層のマスキング層から浮いた状態であるため、形成した微小デバイスを取り出す際に、従来用いられていたレーザーリフトオフの様な技術は必要なく、スタンプ材に吸着させて自然劈開させるマストランスファー技術などで容易に剥離・転写することができる。今回の発表では、試作事例として、低欠陥領域に製作したマイクロLEDを剥離し、単体での点灯させた様子を示した(図3)。
このサファイア基板上にELO層を形成した基板を、EGOS(ELO GaN on Sapphire)基板と呼んでいる。今回の発表では、2インチのサファイア基板を用いているが、より大口径のSiウエハを基板として用いることも可能であり、また、作製した100μm以下の微小デバイスを個片に切り出す事も容易である。このため、さまざまなデバイスを安価に製造するベースとすることができ、今後のGaN系マイクロ製造のプラットフォームとなる技術であると位置づけている。
Si基板を用いて作製した100μmの短共振器レーザー
2件目の講演では、実際にSi基板を用いて、100μmの短共振器レーザーを試作した事例を発表した。従来の半導体レーザーの作製方法では、100μm以下の共振器長のレーザーの作製は難しいが、今回のEGOS技術による低欠陥な薄膜領域を使うことで100μm以下の特性の良いデバイスを作製できる。製造工程でもGaNとSiの熱膨張係数の差で生じる引張歪みを利用した自動劈開によって、ダイの配列を選択的に転写できることを特徴としている(図4、図5)。
レーザーダイオードは、すでにさまざまな分野で使われている。これらは共振器長が数100μm以上で大きな出力を持つものが主である。現在期待されているARグラスの応用に対しては、数十mW程度の出力で良いところを大出力の物で代用している面がある。今回の100μm以下の短共振器レーザーが可能になれば、小型軽量かつ低消費電力のデバイスとしてARグラスなどへの適用が期待できる(図6)。
また、期待されているマイクロLEDに関しても、さまざまな製造方法が開発され実用化を目指して各社しのぎを削っている段階であり、マイクロLEDチップの製造方法やアセンブリーに関しても、さらなる技術革新が必要とされている状況である。今回の京セラの技術は、マイクロLEDの製造プロセスを大きく変える可能性を持っており、早期の実用化が期待される。