NECと慶應義塾は2月6日、防災・減災による将来のCO2抑制量を算出・可視化し、金融商品化(クレジット化)することで市場取引を実現する「潜在カーボンクレジット」の社会実装に向けた活動を開始すると発表した。同日には記者説明会が開催され、潜在カーボンクレジットの意義や今後の活動方針などが紹介された。

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潜在カーボンクレジットは、11月30日の「NEC Innovation Day」でも触れられた、NECのICT技術と慶應義塾の学術的知見・活動を組み合わせたカーボンニュートラル領域の新たな取り組みだ。

具体的には、NECのリアルタイム津波浸水・被害推定システムやインフラ監視技術などの防災・減災ソリューションなどを用いて、「自然災害の被害発生率」や「被災による構造物の被害額」、「防災・減災ソリューションを導入した場合の減災率」などをシミュレーションし、将来のCO2排出の抑制量を算出・可視化して現在の価値として金融商品化する。

そして、金融商品にESG(環境・社会・ガバナンス)投資や、防災・減災対策を目的とした投資を呼び込むことで、企業、投資家、自治体間の防災・減災やカーボンニュートラルに向けた資金循環を促すというものだ。

  • 「潜在カーボンクレジット」の取り組みイメージ

    「潜在カーボンクレジット」の取り組みイメージ

NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏は、「潜在カーボンクレジットを用いることでESG投資をさらに活性化し、防災、減災に資金がまわる仕組みを確立する。また、気候変動の影響に備える適応策を進展させることで、気候変動由来のCO2が排出され災害が増加し、新たなCO2が発生するといった負のサイクルを断ち切ることができると考える。日本発となる先進的なアプローチを世界に発信していきたい」と意気込みを語った。

  • NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田隆之氏

    NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田隆之氏

NECと慶應義塾は、産学連携を通じたオープンイノベーションによる共創活動を2021年から開始しており、今回の取り組みもその一環となる。

潜在カーボンクレジットの社会実装に向けて、両社は2023年度中を目途にコンソーシアムを立ち上げる。業種・分野の枠を超えて企業や大学、政府、自治体などのパートナーを募り、早ければ2024年中に実証実験を実施する計画だ。

  • 「潜在カーボンクレジット」の社会実装に向けたコンソーシアム活動

    「潜在カーボンクレジット」の社会実装に向けたコンソーシアム活動

慶應義塾からは研究者や学生が参加し、CO2抑制量の測定方法の確立や国際的なルールメイキング、開発技術のビジネス化、社会投資のインセンティブ設計、事業展開、コンソーシアム参加者がオープンに議論できる場の形成などを支援する。

慶應義塾長の伊藤公平氏は、「学部やキャンパスの壁を越えて協調する体制を整える。コンソーシアムには、理系・社会学系などさまざまな方に参加いただきたい。多様な機関を巻き込みながらオープンイノベーションを推進し、カーボンニュートラル、防災、公共サービスの向上、社会地域貢献、未来のデザインなど、社会に対してアウトプットを出していきたい」と述べた。

  • 慶應義塾長 伊藤公平氏

    慶應義塾長 伊藤公平氏

今回の取り組みにおいては、算出・可視化した将来のCO2抑制量の正確さや、データの真正性が重要となる。そのためには、災害の被害を受ける可能性のある建物やインフレのデータを長期に測定していく必要がある。

NEC デジタルテクノロジー開発研究所 所長の池谷彰彦氏は、「今後のデータ測定においてはテクノロジーがキーになる。一方で、過去の災害に対するCO2排出量のデータは分析対象となるぐらい蓄積されている。そうしたデータにAIやデジタルツインを利用することで、客観的にCO2の排出量や削減量、クレジットとしての価値を測れると考える。そのための技術的なブレイクスルーも近づいている」と見立てる。

  • NEC デジタルテクノロジー開発研究所 所長 池谷彰彦氏

    NEC デジタルテクノロジー開発研究所 所長 池谷彰彦氏

すでにNECでは、津波や洪水などの水害に対する防災ソリューションと、被災エリアの建造物の健全度などの情報を組み合わせてシミュレーションすることで、建造物の倒壊・再建の回避に伴う将来のCO2抑制量を可視化できているという。

このほか、投資資金を集めるプラットフォームも課題となる。その点について、池谷氏は「カーボンクレジットの取引市場に上場するほか、新たな取引所を作るなどの案が考えられる。今後、コンソーシアムにて金融機関と検討を重ねる予定だ」と説明した。

潜在カーボンクレジットの市場規模について、両社では年間数千億から数兆円規模の投資を喚起できると見込む。