そこで研究チームは今回、次世代シーケンサを利用した日本人に適したエピゲノム年齢推定法を開発すると同時に、東京百寿者研究と全国超百寿者研究に参加した101~115歳の94名と、東北メディカル・メガバンク(TMM)計画の地域住民コホート調査に参加した20~79歳の健常な421名のエピゲノム状態を比較解析し、健康長寿に関わるCpGサイトの探索を行うことにしたという。
まず、TMM計画参加者のエピゲノム情報を用いて、暦年齢を推定できる日本人用のエピゲノム時計が開発された。それを用いて百寿者のエピゲノム年齢と暦年齢の比較を行った結果、男性1名を除き、暦年齢よりも若いエピゲノム年齢が示されたとする。また、エピゲノム状態に影響する血中の細胞種組成の違いを考慮した指標「エピゲノム年齢加速」においても、百寿者のエピゲノム年齢は若い状態が維持されていた。
続いて、エピゲノムワイド関連解析により、TMM計画参加者のCpGサイトにおいて、年齢に沿って高メチル化が進む408のCpGサイトと、低メチル化が進む1701のCpGサイトが検出された。これらの多くは、百寿者においても加齢に沿った高メチル化または低メチル化が示されたという。
一方で百寿者のCpGサイトでは、DNAメチル化が若い状態に維持されているもの、逆にDNAメチル化が加速しているものも発見された。百寿者の若い状態に維持されているものの多くは、がん遺伝子や、がん抑制遺伝子の近傍に集まっており、逆にエピゲノム状態変化が加速しているものの多くは、免疫関連遺伝子の近傍に集まっていたとする。
さらに、タンパク質機能に着目したネットワーク解析の結果、百寿者で若く維持されていた同サイトは、がんのほか、認知機能に関わる領域に存在することも示された。この結果は、がん罹患や認知機能の低下を示さない百寿者の典型的な特徴を説明できるという。
また、老化方向にエピゲノム変化が加速していたCpGサイトは、抗炎症作用を有する「TGF-β」のシグナル伝達の活性化に関与する領域に存在していた。これは、エピゲノム状態を若く保つだけではなく、加齢に伴って、より老化が進むエピゲノム変化が重要である可能性も示唆しているとした。なお、百寿者で老化方向に進んでいたこれらのCpGサイトは、一般的なエピゲノム時計では考慮されにくく、若い状態を保つことが過大評価されている可能性も示されたとする。
研究チームは、今回開発されたエピゲノム年齢推定法を指標にし、健康長寿を達成するための生活習慣改善や予防方法の開発が期待されるとした。