岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)、慶應義塾大学(慶大)、KDDI総合研究所の3者は2月2日、20~70代までの健常者421名から次世代シーケンサを用いた年齢推定手法を開発し、それを用いて100歳以上の長寿者(百寿者)94名のエピゲノムの状態を解析した結果、百寿者の推定年齢が暦年齢よりも若く、特に「CD44」を中心としたがん関連遺伝子と「CNTNAP2」などの認知機能に関わる遺伝子群のエピゲノム状態が、若い人と同程度に維持されていることがわかったことを共同で発表した。
またその一方で、「SMAD7」などの抗炎症に関与する遺伝子周辺のエピゲノム状態は、より老化が進んだような状態にあることが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、IMM 生体情報解析部門の小巻翔平特命講師、同・部門長の清水厚志教授、慶大 医学部 病理学教室の新井恵吏准教授、同・金井弥栄教授、同・医学部 生理学教室の岡野栄之教授、同・医学部 百寿総合研究センターの新井康通センター長、同・広瀬信義共同研究員、KDDI総合研究所の永田雅俊コアリサーチャー、同・米山暁夫エキスパートらの共同研究チームによるもの。詳細は、長寿と健康的な老化に関する全般を扱う学術誌「The Lancet Healthy Longevity」に掲載された。
エピゲノムとは、DNAの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子の働きを変化させる機構のことで、近年、その視点から健康長寿や老化についての研究が進む。その代表的な現象に、シトシン(C)とグアニン(G)の2種類が連続して並ぶDNA領域「CpGサイト」のメチル化・脱メチル化がある。ヒトゲノム上で同サイトは約3200万か所存在しており、環境要因により可逆的にエピゲノム状態が変化するもの、加齢に伴ってメチル化・脱メチル化が一方向に進んでいくものなどがある。
加齢に沿って一定の変化を示す数百か所の同サイトのエピゲノム状態から本人の年齢を推定する「エピゲノム時計」という手法がある。しかしこの手法ではDNAマイクロアレイが用いられており、近年飛躍的に発展している次世代シーケンサが活用されていなかった。
また海外では、健康長寿者のエピゲノム年齢が暦年齢よりも若いことが報告されていたが、どのような機能に関わる遺伝子のエピゲノム状態が若く維持されているのか、さらに若い状態を維持することだけが重要なのかどうかなど、詳細なことはわかっていなかったという。