ゲル化したNcad-mRADAは、表面にNカドヘリンの細胞外領域が並び、生体内で本来足場として機能する細長い細胞の突起を模倣した構造を取ることが特徴。マウスに用いたところ、脳表面に加えて脳深部の傷害部位に対しても、新生ニューロンの移動を促進することが確認されたとする。Ncad-mRADAは機能性タンパク質をバイオマテリアル内に安定的に保持できるため、一定期間、脳内で持続的にニューロンの移動をサポートする足場の供給が可能であることが考えられるとしている。
続いて、Ncad-mRADAを注入してから1か月後に、ニューロンの再生についての評価が行われた。Ncad-mRADAの注入部付近の観察の結果、バイオマテリアルは分解しており、損傷が強い脳表の近くにおいても多くの成熟ニューロンが再生していることが確認されたという。
最後に、傷害部に注入されたNcad-mRADAが脳損傷による運動機能障害を改善するか、歩行機能テストを行って検証した。Ncad-mRADAを脳傷害部に注入されたマウスは、mRADAが注入されたマウス、あるいは傷害後に治療が施されなかったマウスよりも歩行機能が回復し、正常なマウスと同レベルにまで改善したとする。
これらの結果から、Ncad-mRADAは傷害脳における新生ニューロンの移動を促進する足場として効果的なバイオマテリアルであり、脳傷害後の神経再生を促進することが明らかにされたのである。
研究チームは、脳に内在する幹細胞を用いた神経再生のアプローチには、安全性が高く治療に必要なコストが少ないなどのメリットを有するため、今回超分子バイオマテリアルを用いて自己の新生ニューロンによる神経再生に成功したことは、今後の再生医療の実現に向けた重要な成果といえるとした。
また今回の技術は、細胞移植による再生医療にも応用できる可能性があるという。mRADAは、Nカドヘリン以外のさまざまな種類の大きな細胞接着分子をも組み込むことが可能だ。さらに、誘引因子(遠くの細胞を引き寄せる因子)を混合することで、直接接していない細胞にも作用する、より効果的なバイオマテリアルを作れる可能性もあり、今後さまざまな応用が期待されるとした。