日本マイクロソフトは1月26日、自動車業界における最新の取り組みを紹介するオンライン記者説明会を開催した。

説明会の冒頭で、Microsoft Corporation 自動車産業担当 ディレクターの江崎智行氏は、「自動車業界においてSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義型自動車)の実用化を目指す時代に突入している。今後はバリューチェーンを巻き込んだシステムの最適化や、消費者を中心にした新しいモビリティを定義するため、異業種が連携したエコシステムの構築がさらに進展するだろう」と今後の業界の変遷について述べた。

  • Microsoft Corporation 自動車産業担当 ディレクター 江崎智行氏

    Microsoft Corporation 自動車産業担当 ディレクター 江崎智行氏

米マイクロソフトでは、新たなモビリティサービスの提供とサステナビリティやセキュリティへの対応が自動車・モビリティ産業の重要課題としている。

説明会では、新たなモビリティサービスを実現するために必要な「車両イノベーションの加速」「レジリエントなオペレーション」「組織生産性の向上」「差別化された顧客体験」の領域における同社の取り組みや、提供するソリューションの活用事例が紹介された。

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SDV関連技術の標準化、商用提供をテクノロジー面で支援

車両のイノベーションにまつわる領域において、米マイクロソフトではSDVの実現に向けて、オープンソースでの協業を推進する。

具体的には、欧州の主要オープンソース団体「The Eclipse Foundation」や自動車メーカー、Tier1(総合部品メーカー)などと設立した「Eclipse SDV Working Group」の戦略メンバーに米マイクロソフトも参画し、SDV実装で必要な機能や技術の定義、開発、標準化に取り組む。

  • Eclipse SDV Working Groupと米マイクロソフトによるオープンソースの推進

    Eclipse SDV Working Groupと米マイクロソフトによるオープンソースの推進

今後、オープンソースベースのSDV関連技術が実用レベルに至り、自動車メーカーやTier1企業によるSDVソリューションを商用化することになった際には、Microsoft Azureなどでテクノロジー面の支援をしていく方針だ。

技術の実用化や商用化の過程では、SDV実現に向けた車載向けソフトウェアの開発を進めるオープンプロジェクトである「SOAFEE」(ソフィ)や半導体メーカーなどと戦略的パートナーシップを締結し、協業していく考えだという。

  • マイクロソフトのSDV戦略

    マイクロソフトのSDV戦略

「当社はあくまで、SDV開発を実現するうえで不足する技術を顧客と一緒に作り込み、業界に広く展開していくうえで必要な支援を行っていく。オープンソースでできあがったソリューションをMicrosoft Azureの環境にロックインするのでなく、SDVソリューション開発に最適化された機能やツールを備えた環境となるよう、Microsoft Azure関連事業に投資を行っていく計画だ」と江崎氏は説明した。

SDVに取り組む自動車メーカーとしては、米General Motorsが取り上げられた。同社は自動車をスマホのように利用し、運転者や同乗者にパーソナリゼーションされた体験を実現するサービスを開発するため、Microsoft Azureを利用してSDVプラットフォーム「General Motors Ultifi」を構築した。2023年中にはサブスクリプションベースでパーソナライズされたサービスを提供する予定だという。

現状、オープンソースによるSDV関連プロジェクトは欧米が先行している。そのため、江崎氏は、「SDVの領域にフォロワーとして関わっても利益を得るのは難しい。日本に有利な規格を盛り込むような提案を行うためにも、国内自動車業界にもオープンソース推進活動に参画してほしい」と訴えた。

顧客体験の差別化にメタバースやデジタル活用

レジリエントなオペレーションでは、独メルセデス・ベンツの事例が紹介された。同社は自動車の生産をより効率的に行うことを目的にMicrosoft AzureやMicrosoft Cloudを活用して独自のデータプラットフォーム「MO360 DataPlatform」を開発。これにより、サプライチェーンの見える化を実現した。

また、同社の製造チームは、Microsoft Power BIを利用してセルフサービスポータルやデータ分析ツールを内製で開発した。

  • レジリエントなオペレーションの事例:独メルセデス・ベンツ

    レジリエントなオペレーションの事例:独メルセデス・ベンツ

組織生産性の向上では、Toyota Motor North Americaの事例が紹介された。同社では、現場で起きている課題に対して、自らアイデアを出してアプリを開発し、改善活動の評価、改善を進めていけるようにするためにMicrosoft Power Platformを導入した。

「すでに従業員が既存のツールに代わる400以上のアプリを作成・利用しており、作業時間の短縮につながっている。Excelのスプレッドシートでの作業をMicrosoft Power BIのダッシュボードに置き換えたケースでは、毎月10時間の労働時間が削減された」(江崎氏)

差別化された顧客体験では、消費者および企業でのメタバース活用事例が紹介された。伊フィアットでは、自宅から仮想空間上の販売員に自動車購入の相談が行え、試乗のシミュレーションも可能なバーチャルショールームをMicrosoft Azureで開発した。

また、日産自動車は工場での生産手順の習得効率化のために、HoloLens 2と専用のXR(Mixed Reality)アプリケーションであるMicrosoft Dynamics 365 Guidesを活用し、オンサイトのインストラクターを必要としない自習型トレーニングを開発した。これにより、作業習得のトレーニング時間が10日間から5日間に短縮された。また、インストラクターのトレーニング時間も10時間から1時間に短縮できる見込みだという。

国内自動車業界をサポートする専門部署を設立

今後、米マイクロソフトでは、自動車業界向けのデジタル活用を後押しすべく、業界で共通に求められる機能を統合したリファレンスアーキテクチャを提供していく計画だ。

同アーキテクチャでは、パートナーの独自機能を備えたソリューションの構築や、自動運転機能のためのクラウド、エッジ、車両、AIの包括的なサービスセットの提供、コミュニケーション、セールス、オペレーションでのメタバース活用支援も行っていくという。

  • 自動車業界向けのリファレンスアーキテクチャを提供

    自動車業界向けのリファレンスアーキテクチャを提供

国内においては、自動車業界のデジタル活用支援を強化すべく、2022年7月に日本マイクロソフトにモビリティサービス事業部が新設された。同事業部では、SDVやサステナビリティに向けた取り組みに注力するほか、市民開発の活用を支援していく方針だ。

日本マイクロソフト 執行役員常務 モビリティサービス事業本部長の竹内洋二氏は、「国内自動車業界にはグローバルに活動する企業が多い。また、業界全体のデジタル化への投資余地も大きい。企業単体のサポートだけでなく業界を超えた連携もサポートするとともに、ソフトウェアの力で製品・サービスを融合することで、国内自動車業界の企業がグロ-バルに戦える新たな価値を創出したい」と語った。

  • 日本マイクロソフト 執行役員常務 モビリティサービス事業本部長 竹内洋二氏

    日本マイクロソフト 執行役員常務 モビリティサービス事業本部長 竹内洋二氏