その結果、大きな体積膨張を伴う磁場誘起歪を発見したという。特にCr3Te4においては、-260~80℃に至る幅広い温度領域において大きな体積膨張が現れ、9Tの磁場を加えた時の体積膨張は最大で1200ppmにも達したという。このような巨大な磁場中体積変化を示す物質は限られており、これらのクロムテルル化物が新しいアクチュエータ材料として有望であることを示すとする。

またクロムテルル化物における磁場誘起歪は、主に形状が変化して体積は大きくは変化しない従来とは異なり、形状を保ったまま体積が大きく変化する点が大きな特徴なことに加え、0~9Tに至る幅広い磁場範囲のほとんどにおいて磁場に比例して体積膨張することも確認されたことから、研究チームでは、これらの結果は、従来の磁歪材料のような磁場による強磁性磁区の整列によるものでないことを示すと説明している。

  • 磁場中における体積変化

    Cr3Te4焼結体(右)の磁場中における体積変化。どの温度領域においても磁場の大きさにほとんど比例して体積が膨張していることがわかる (出所:東大 物性研Webサイト)

Cr3Te4とCr2Te3の大きな体積膨張を伴う磁場誘起歪のメカニズムを調べるため、両化合物の磁場誘起歪、熱膨張、低温X線回折、磁化の実験結果の考察が行われたところ、結晶格子が磁場により異方的に変形する効果と、焼結体試料に存在する空隙の大きさが変化する材料組織の効果が協働することにより生じた可能性が高いことが明らかになったとする。

これは、大きな体積変化を伴う磁場誘起歪を実現する新しい機構であり、従来のように強磁性体における磁区が重要な役割を担わなくてもよいことを意味し、次世代の磁歪材料開発の幅を大きく広げるとしており、今回の研究が引き金となって、従来材料とまったく異なる物質群におけるアクチュエータ材料の有力候補の開発や、自発磁化を持たない反強磁性体において大きな磁場誘起体積変化を示す物質が発見されることが期待されると研究チームではコメントしている。

なお、従来の磁歪材料の磁歪は、磁場を加えると、ある方向には伸びるがその垂直な方向には縮むという異方的な形状変化として現れ、等方的な体積変化はあまり大きくなかったほか、強磁性体における自発磁化の発現に伴う現象のため、強い磁場を加えた時に磁歪は頭打ちになっていたが、今回の磁場誘起の体積膨張は、物体の形をほぼ保ったままの等方的である点、少なくとも0~9Tの広い磁場範囲でおおむね磁場に比例して示される点、そして極低温から室温以上に至る幅広い温度領域で示される点が特徴的であり、既存の磁歪材料では対応できなかった、磁場応答に高い等方性や線形性が要求されるような用途への利用が期待されるという。

  • 従来の磁歪材料と今回の成果の磁場誘起歪

    従来の磁歪材料と今回の成果の磁場誘起歪 (出所:東大 物性研Webサイト)

また、今回の研究において、クロムテルル化物における室温巨大磁場誘起歪が発見されたことは、同化合物の磁性体が次世代の磁歪材料開発の舞台として有望であることを示し、さらなる高性能材料の発見が期待されるという。