国内でのメタバース活用の動きが活発だ。IT業界をはじめ、さまざまな企業が関連するサービスや技術を提供しはじめており、実証実験などで効果的な活用シーンを模索している。

メタバースの特徴としては、仮想空間上に人々が自由に参加・交流し、NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を介してデータや通貨などの取り引きできる点が挙げられる。また、最新のCG技術を用いてリアルに再現された人や街並みのほか、3D空間やアバターによる新たな表現なども目を引く。

だが、2022年4月オープンのバーチャル秋葉原のメタバース空間を作成するなど、企業・自治体の3DCGやメタバース活用を支援してきたキャドセンター 取締役社長の橋本拓氏は、「3D空間を提供する側からすればアウトプットに大きな違いはない。メタバース成功のカギを握るのはコミュニティだ」と指摘する。

企業がメタバースをビジネスに生かし、マネタイズにまでつなげるにはどうすればいいか、3DCGのプロである橋本氏に話を聞いた。

  • キャドセンター 取締役社長 橋本拓氏

    キャドセンター 取締役社長 橋本拓氏

【関連記事】
≪富士通がメタバースで加速する持続可能な社会の開発、「MVP」って何だ?≫
≪TSIホールディングスら、メタバースでのファッション体験を実現する実証≫

継続利用につながる「コミュニティ」の形成

橋本氏によれば、企業のメタバース利用は現状、町おこしや観光促進のような「イベント・エンターテインメント」、災害対策や建物の再現といった「産業」、バーチャル店舗の出店や教育・研修などの「企業のICT活用」の3分野に類型化できるという。

国内ではイベント・エンターテイメント分野でのメタバース利用が活発だ。ただ、一時的な集客装置としては機能しているものの、多くのケースではメタバース空間の利用は単発で終わってしまい、ユーザーによる継続的な利用が課題となっているそうだ。

橋本氏は、「真新しさがあり、流行りものとして注目されているため、プロモーションにメタバースを利用しやすいが、いくら空間が魅力的でもユーザーが少なければ経済活動も起こらない。メタバースでマネタイズを成功させるためには、コミュニティ形成につながる取り組みが求められるだろう」と語った。

  • DNP、AKIBA観光協議会、東京都千代田区などが参画するバーチャル秋葉原では、地域経済の活性化を目指している。企業や地域事業者によるバーチャルショップ出店やECサイトの開設などが可能だ

    DNP、AKIBA観光協議会、東京都千代田区などが参画するバーチャル秋葉原では、地域経済の活性化を目指している。企業や地域事業者によるバーチャルショップ出店やECサイトの開設などが可能だ

コミュニティを生むためには、すでにSNSやオウンドメディアなどで取り組まれているファンマーケティングが有効だ。日常的に人が集まるためには、何千万人ものユーザーが3Dアバターで同時にアクセス可能な通信回線やデータを処理できるITインフラの整備など技術的な課題もある。

橋本氏は2003年にサービスが公開された「Second Life(セカンドライフ)」に注目する。

「日本では失敗したサービスとして捉えられているが、依然としてサービスが継続しており、米国では根強いユーザーが何十万人も使い続けている。CGのクオリティも向上していて、2022年には『プレミアム プラス』という新たな有料プランも登場した。サービス終了していないセカンドライフから学べることがあるかもしれない」(橋本氏)

セカンドライフから学べるコミュニティ形成の秘訣として、橋本氏はユーザーが気軽に立ち上げたり参加したりできるスペースが開設できることや、仲間と楽しめるイベントが定期開催されていること、また、高精細なアバターによる臨場感のあるコミュニケーションが可能な点などを挙げた。

  • Second Life(セカンドライフ)の公式サイト

    Second Life(セカンドライフ)の公式サイト

オープンデータ活用による「リアルとの融合」

他方で、誰もが利用するものとしてメタバースが普及するためには、実生活に役立つサービスとしての進化も必要になる。

類似分野として注目されているのが、現実世界から収集した立体物や環境データを仮想空間に紐づけてシミュレーションなどに用いるデジタルツインだ。すでに、都市データや人流データを3DCGに重ね合わせて、災害時の避難経路のシミュレーションやビルでの警備員配置、工事の工程管理などでデジタルツインの実証実験が進んでいる。

消費者向けの身近な例としては、不動産業界での活用が進む。アクセンチュアと東急不動産がマンションのデジタルツイン化での協業を2022年に発表した。

不動産デベロッパーは、分譲マンション販売のために建物の3DCGを作成するが、全戸が販売完了した後はあまり利用されていない。

今後は、住民と管理組合が参加するメタバースとして3DCGを再稼働させて関係者間でのコミュニケーションツールとして利用したり、BIM(Building Information Modeling)や点群データなどを組み合わせて大規模修繕やリノベーションのシミュレーションを行ったりするような展開も起こり得るという。

「メタバースを実生活に役立てるには仮想空間とリアルの融合がさらに進むことが不可欠であり、さまざまなデータのオープン化も求められるところだ。しかし、建設会社からすれば、BIMは自社ノウハウの塊なのでオープン化に踏み出しにくい領域であり、データ活用も大きな課題の1つだと言える」と橋本氏。

国内では2021年から国土交通省が、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」(プラトー)を開始している。デジタルツイン、そしてメタバースへのリアルデータの活用はまだ始まったばかりだ。今後の動向に注目したい。

  • 「PLATEAU」の公式サイト

    「PLATEAU」の公式サイト