富士通は2021年10月に、サステナブルな世界の実現を目指す新事業ブランド「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」を策定した。以前はシステムインテグレーションなどを強みとしていた同社だが、昨今の社会情勢の変化を受けて、持続可能なソリューションを提供する企業への変革を目指す。

これまで、企業や地域の要求に応じて適切な回答をソリューションとして提供するビジネスを手掛けてきた同社は、今後は社会課題に先駆けてオファリングする、未来に必要とされるサービスを作る企業を標榜しているという。

Fujitsu Uvanceのブランドで展開されるKey Focus Areasは、「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」といった社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野(Vertical Areas)と、それらを支える「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3つのテクノロジー基盤(Horizontal Areas)の、合計7分野である。

  • Fujitsu Uvanceの主要7領域

    Fujitsu Uvanceの主要7領域

近年は、気候変動や環境問題をはじめ、地政学的リスクなど、別の国で発生した諸問題が波及して私たちの生活に影響を与える例も少なくない。これらのグローバル全体の複雑な課題に対して、富士通は1つのアプローチだけで対処するのではなく、多面的な解決を試みるとしている。

さて、複合的な社会課題の解決に資する取り組みの一例として「スマートシティ」が挙げられる。しかし、その多くは持続的な成功ができていないのが現状のようだ。国際経営開発研究所(IMD)が発行した、都市のスマートレベルを格付けする『Smart City Index』によると、持続的に成功しているといえる企業は118都市中わずか8都市のみ。

個人や企業のデータ活用におけるプライバシーの懸念を拭い去ることができずに、データ収集が困難となりプロジェクトを中断する例が多いという。他方、持続的なスマートシティ開発に成功している都市は、各ステークホルダーへの経済的、および社会的便益を明確に定義して、地域住民の協力を得ながらサイロ化したシステムから脱却できている。

  • スマートシティ開発のグローバル状況

    スマートシティ開発のグローバル状況

目指すべきビジョンを住民らと共有し、自治体や企業の壁を超えて取り組めるかどうかが、成否を分けるのだろう。富士通でFujitsu UvanceのTrusted Society領域を担当する三好健宏氏は、以下のように述べていた。

「特定の企業だけがもうけようとしているのではないかと地域住民に思われてしまうと、取り組みの失敗につながる。テクノロジーありきでスマートシティ化に着手するのではなく、まずはビジョンを共有すべき。起業や自治体だけががんばるのではなく、官民一体で挑戦できる土台が大事」

  • 富士通 Uvance本部 Trusted Society Lean Development Office 室長 三好健宏氏

    富士通 Uvance本部 Trusted Society Lean Development Office 室長 三好健宏氏

  • Trusted Societyの概要

    Trusted Societyの概要

企業や自治体の枠にとらわれない技術開発を実現するために富士通が着手した取り組みが、MVP(Minimum Viable Product = 検証用の最小プロトタイプ)である。これは、最初から緻密なスケジュールやデザインを固めてからソリューションを作るのではなく、アジャイル開発の手法のように「小さく生み出して改善しながら作り上げていく方式」だ。

  • MVP開発の手法

    MVP開発の手法

三好氏は「あらかじめ決められたゴールに対してメニュー通りに作るのではなく、課題は分かっているけど解決方法が分からない場合に有効な手法だ。最初から映画を撮り始めるのではなく、絵コンテを作ってみる、あるいは、料理のタレだけを味見してみるようなもの」と紹介していた。

MVPが特徴的なのは、オープンイノベーションで開発を進める点である。通常、新ソリューション開発の種となる試行錯誤の段階は企業秘密とされる場合が多いだろう。しかし、富士通としては共創を促して、官民を巻き込みながらTrusted Societyを実現する方針とのことだ。

MVPを実現すべく、同社は2022年10月に社内外の関係者200人以上を川崎のオフィスに招いてDemo Dayを開催した。その結果、来場者アンケートなども実施でき、MVP開発にフィードバックを反映できたとしている。一方で、学術集会のように掲示物などを張り出してディスカッションできたそうだが、印刷物の準備などに多くの時間を要した課題も見られたとのこと。

そこで、今後はメタバース空間を活用したMVP Demo Dayを開催する。メタバースを利用することで移動に伴う物理的な制約が無くなり、グローバルな関係者への情報発信も可能となるため、より多面的なフィードバックが期待できる。さらに、データの更新もアナログ開催と比較して容易なため、常に最新情報を発信できるようになる利点もある。

  • メタバースを活用したMVP Demo Dayの概要

    メタバースを活用したMVP Demo Dayの概要

また、時間にとらわれずに動画や発表スライドを閲覧できるようになるほか、来場者の意見を含むデジタルデータも容易に取得できるようになると期待されるとのことだ。

富士通は、スマートシティ開発のように複数の課題やプロジェクトに対して複数のステークホルダーが存在する場合、メタバース空間を利用したP2P(ピア・ツー・ピア)での共創を促進するMVP開発が適しているとしている。

  • Demo Day参加中の様子

    Demo Day参加中の様子

  • Demo Day参加中の様子