ゴルフウェアブランド「PEARLY GATES」をメタバースで再現

TSIホールディングス、アリババクラウド、JP GAMESは12月15日、メタバース空間およびサービス構築に向けた共同プロジェクトを開始し、TSIホールディングスのゴルフウェア主力ブランド「PEARLY GATES」に関してPoC(Proof of Concept:概念実証)に着手することを発表して記者会見を開いた。

このPoCでは、TSIホールディングスによるコンテンツやサービスの企画立案と、メタバース空間上での動作検証を含めた動作検証に取り組む。2023年1月までに実現したい世界の企画構想や検証を行い、事業計画を策定する予定だ。

また、これと並行して、アリババクラウド上で動くJP GAMESのメタバース空間構築技術フレーム「PEGASUS WORLD KIT」にTSIホールディングスが3Dシミュレーション「CLO」で製作した洋服のデータを取り込み、メタバース上でアバターに着せた際の動作などを確認する。

  • メタバース空間にコンバートした縫製用3Dデータ

    メタバース空間にコンバートした縫製用3Dデータ

2023年4月には開発項目や仕様を確定して制作を開始し、2023年度中には具体的なサービスをリリースする予定だとしている。

TSIホールディングスはEC(Electronic Commerce:電子商取引)への投資を増やしており、2020年のEC売上高は全体の34.4%を占めるという。また、リアル店舗との相互送客効果が高い自社ECの比率は45.4%まで伸長している。リアル店舗だけでなくECも活用したオムニチャネルでの販売網が同社の強みだ。

また、TSIホールディングスは中期経営計画の中で、エンターテインメントの追求による顧客獲得を目指すとしており、アパレルに限定しないファッションエンターテインメントの創出を図る。新たな体験価値創造に向けて積極的な投資を表明しており、デジタルにおける新たな消費体験と、ブランドを中心とした新たな体験価値を創出するためにメタバースの活用を検討したとのことだ。

これまでのような「付き合い」目的から、純粋にスポーツとしてゴルフを楽しむ若年層が増えている背景を受けて、メタバースを活用するブランドとしてゴルフウェアを手掛けるPEARLY GATESを選んだという。ゴルフというラグジュアリーな体験と、ゴルフならではのコミュニケーション体験をメタバース活用によって促す。

  • 3D画像と実物写真の比較

    3D画像と実物写真の比較

3社の協業において、TSIホールディングスは洋服の3Dデータモデリングや、サービスの具体的な企画立案、メタバース空間内でのエコシステム運営の検討を担当する。豊富なブランドポートフォリオや、ECをはじめとするデジタルでの販売網など、同社の強みを生かすとしている。

メタバース空間の設計と体験イベントの設計はJP GAMESが担う。スクウェア・エニックス・グループでファイナルファンタジーXVのディレクターを務めた経験を持つ田畑端氏が立ち上げた同社は、高品位なグラフィックス再現や体験デザインのノウハウを発揮する。

メタバースのインフラを支えるのがアリババクラウドだ。アリババのEC運営で培ったデータマーケティングプラットフォームや多数のトランザクションにも耐え得るデータ基盤を提供する。また、特にアジア圏に向けたマーケティングや配信のノウハウも活用するようだ。

  • 協業の体制

    協業の体制

メタバースが日本の企業にもたらす恩恵とは?

記者会見では、3社の代表がメタバースの可能性について語るパネルディスカッションも催された。以下にその一部を紹介しよう。出席者はTSIホールディングス上席執行役員の今泉純氏、JP GAMES代表取締役の田畑端氏、そしてアリババクラウドの日本カントリーマネジャーであるUnique Song(ユニーク ソン)氏の3名。

  • パネルディスカッションの様子

    パネルディスカッションの様子(写真の左から今泉氏、田畑氏、Unique氏)

-日本市場におけるメタバースの可能性は?

今泉氏:私は成長の可能性があると思っています。現在の経済活動がこのまま肥大すると、地球規模でサステナビリティへの影響が懸念されます。これから先の人類が経済的に成長するための道が2つあると思っていて、1つは宇宙空間、もう1つはデジタル空間です。人類の新しい経済活動の空間としてメタバースは有効でしょう。

田畑氏:最近は、生活者がデジタル空間で過ごす時間が増えていますが、これは今後も不可逆的な変化だと思います。つまりデジタル空間で産業が広がるのも当然のことではないでしょうか。アバターのできることが増えると同時にアバターが出かけられる場所も増えることで、メタバースは産業として発展するのではないでしょうか。

Unique氏:クラウドネイティブなソリューションとしてのメタバースが生まれてから、まだ数年しか経っていません。ゲーム業界とメタバースは相性が良いので、現在はゲームを中心としたサービスが多いですが、今回3社で取り組むファッションのように、これから徐々に生活の中にメタバースが浸透してくるはずです。

-メタバースが日本の企業にもたらすメリットは?

今泉氏:これまでの日本経済は「品質」という強みによって成長してきましたが、その反面、知的財産やデザインなどのソフト面の力が弱いです。現在はグローバルの中で品質の強みを生かしにくくなっているので、日本企業が勝ち残るためにはソフト面の力が必要です。ファッションの場合、サステナビリティの観点からも大量の試作を作るのが難しくなっており、メタバース空間の中で試行錯誤しながらデザインを磨けるのは、メタバースの恩恵だと思います。

田畑氏:今まさにメタバース空間での仮想旅行のサービスを考えているのですが、ホスピタリティや対人サービスの品質の高さは他国よりも日本が優れていると感じます。日本の企業が顧客との接点をメタバース空間で持つようになったとしても、ホスピタリティや対人スキルを発揮できるのは利点ではないでしょうか。

Unique氏:近年DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えていますが、中でも多くの企業で課題となるのは「紙で保存している資料の取り扱い」だと思います。紙で保存しているために活用できていないデータも多いと思います。メタバースでは最初から全てのデータをデジタルデータとして収集できるので、これを分析することでトレンド把握やプロモーション、マーケティングに活用できるはずです。

-これからメタバースに取り組みたい企業へのメッセージ

今泉氏:メタバース活用のキーワードは「コラボレーション」だと思います。自動車メーカーが自動車だけを作っていれば良いのではなく、世界中の他業種企業やデザイナーとメタバースでつながれるようになると、新しい化学反応が生まれるはずです。法人と個人の差や業界の垣根を超えてつながれる、メタバースならではのエコシステムを利用するのが良いでしょう。

田畑氏:これまでやったことがない仕事をするよりも、その道のプロとコラボレーションしてみるのが良いと思います。ゲームキャラクターの衣装を例にすると、どれだけコストをかけてデザインしても、リアル世界の服を作るデザイナーには勝てないこともあります。リアルの服をデザインするプロがゲーム企業とコラボすればユーザー体験の向上が狙えます。このように、特定の領域のプロ同士がコラボレーションして互いの強みを生かすのが良いはずです。

Unique氏:メタバースはこれからどんどん活用事例が増える分野なので、今はまだ正解がわかっていません。小さくても良いのでまずは試してみて、修正しながらサービスを改善して磨き上げていくのが良いのではないでしょうか。禅の世界に「大道無門(大きな道には門がないことから、制約を設けずに何でも受け入れる心の広さを表す)」という言葉があります。制限を作るのではなく広い心でまずはトライしてみてください。