ダイキン工業は1月19日、スタートアップとの協業を目的としたCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)活動に関するハイブリッド記者説明会を開催した。

ダイキングループのグローバルな技術開発のコア拠点として、同社は2015年、大阪府摂津市にTIC(テクノロジー・イノベーションセンター)を設立。2019年からはTIC内のCVC室が中心となり、スタートアップとの協業推進を目的としたCVCに取り組んでいる。

ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長の三谷太郎氏は、「当社は空調・化学領域を中心に事業展開しているが、周辺には手を付けられていない領域があり、TICをハブに社内・社外・顧客と取り組む『協創』の一環としてCVC活動を推進している」と説明した。

  • ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長 三谷太郎氏

    ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長 三谷太郎氏

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5年で110億円の投資枠を設定し、事業貢献・成果創出を重視

ダイキン工業のCVCでは、「既存事業とのシナジー創出と周辺領域への先行投資」「グローバル目線でのビジネスモデル変革」「信頼関係構築を通じた外部の優秀人材の活用・採用」を目指して、スタートアップへの出資と協業を進める。

同社では対等な立場で議論できる関係を目指しており、スタートアップが望めば社内外のさまざまなメンバーとの面談の機会を設定するほか、出資先のスタートアップが利用できるオープンスペースをTICや東京支社(東京都品川区)内に設けている。

2022年末時点で、同社は20社以上のスタートアップ・VC(ベンチャーキャピタル)に50億円を超える投資を実施している。

  • ダイキン工業がCVCで投資するスタートアップ・VC

    ダイキン工業がCVCで投資するスタートアップ・VC

出資先には、例えば独自の設計技術「DFM(Direct Functional Modeling)」を有するNature Architectsがある。同社とは空調機能部材・部品の設計プロセスの高度化や、静音性の高い空調の開発などに取り組む。

このほか、データ活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域でも協業を進める。JDSCとは空調機器のIoTデータを用いた不具合監視・運転異常予兆検出AIの共同開発を進め、フェアリーデバイセズとはスマートウェアラブルデバイスを活用した現場業務のDXに着手している。

「CVC活動を開始するにあたっては、5年で110億円(1件あたり5億円未満)の投資枠を設定した。また、スピーディな判断・行動を可能とするよう、部門長の決裁で出資などが行えるように権限移譲も行った。CVC活動では当社の財務的なリターンではなく、最終的な事業貢献・成果創出にこだわっている」と三谷氏は述べた。

CVCの投資領域の選定では、ダイキン工業の戦略経営計画「FUSION25」がベースになる。同計画で成長戦略として設定する「カーボンニュートラル」「ソリューション」「空気価値の創造」に、将来に向けた先行技術開発とリサーチが必要な領域を加えた4領域をベースとして、現在は21のテーマに投資を行っている。

  • CVCにおける投資領域

    CVCにおける投資領域

ダイキン工業は今後、国内スタートアップが集まる東京でのCVC活動を強化する方針だ。また、技術・事業開発に向けた協業だけでなく、人の採用・売上拡大・資金調達など支援範囲も拡充していく予定だ。

三谷氏は、「事業をグローバル展開するうえでは、システム構築後に後発企業から阻害されることを避けるために、グローバルレベルの強い特許ポートフォリオの構築が必須となる。フェアリーデバイセズとの現場作業向けソリューション開発にあたっては、当社のリソースを投入することで特許取得を促進できた。3年間で50~100件の共同出願目標に対し、約6カ月で30件の特許出願となり、技術開発の加速につながった」と明かした。

当初設定した投資枠110億円のうち、残りの約60億円については、新しいスタートアップへの出資のほか、既存の出資先への追加投資などに用いるという。

ヒートポンプやIAQなど、2023年以降も投資を継続

説明会には、1月13日にダイキン工業が出資を発表した京都大学発のスタートアップで、MOF(金属有機構造体)を活用した新機能材料の開発事業を展開するAtomisの代表取締役 CEO 浅利大介氏も登壇した。

浅利氏は、「ダイキン工業は当社と同様、気体を基盤としたビジネスを展開している。また、化学関連事業の経験から新素材に対する造詣も深く、シナジーを創出できると考える。将来的には、低炭素社会実現に向けた新しいビジネスプラットフォームを共創したい」と語った。

  • Atomis 代表取締役 CEO 浅利大介氏

    Atomis 代表取締役 CEO 浅利大介氏

MOFは格子状の細孔空間を自由に設計できる新素材で、孔の大きさ、形状、特性を変えることにより、特定の気体分子のみを吸着、分離することが可能だ。ダイキン工業は空調機などから回収した冷媒ガスの分離・再生にAtomisの技術を応用するため、2020年から同社との協業に取り組んでいる。

  • ダイキン工業とAtomisが事業化を目指す冷媒の再生利用のイメージ

    ダイキン工業とAtomisが事業化を目指す冷媒の再生利用のイメージ

2023年もダイキン工業は、CVCを通じた投資・協業を進める方針だ。新たな投資対象としては、ヒートポンプ関連のテクノロジーや空調のDX、IAQ(Indoor Air Quality、室内空気質)測定のためのセンシングなどの技術に注目する。

有望な技術とスタートアップを見つけるために、米シリコンバレーと中国の深圳にあるTICの拠点や、欧州のリサーチ拠点とも連携し、グローバルな情報収集を継続しているという。

ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター センター長 兼 常務執行役員の米田裕二氏は、「日本企業は長らく、景気悪化で投資を控えるサイクルを続けてきたように思う。2023年は世界的な景気後退が懸念されているが、当社は製造業としてイノベーション投資を積極的に増やしていこうと考えており、2023年以降もスタートアップやVCへの投資をゆるめるつもりはない」と断言した。

  • ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター センター長 兼 常務執行役員 米田裕二氏

    ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター センター長 兼 常務執行役員 米田裕二氏