インターステラテクノロジズ(IST)は12月6日、同社の福島支社(福島県南相馬市)において、ジンバル機構の性能取得試験を実施、その様子をプレスに公開した。ジンバルは、ロケットエンジンの推力の向きを制御する装置。2023年度の初打ち上げを目指し、開発を進めている超小型衛星用ロケット「ZERO」に搭載される予定だ。
ロケットでのジンバルの役割
ZEROは、全長25m、直径1.7m、総重量33tの2段式ロケットである。エンジンは、第1段に9基、第2段に1基を搭載。ジンバルは、この10基のエンジン全てに設置される。噴射方向を変えることでロケットの姿勢を制御しており、機能的には「TVC」(Thrust Vector Control=推力方向制御)とも呼ばれる。
ジンバルは、2軸のジョイント部と、各軸のアクチュエータで構成。アクチュエータを伸縮させることで、噴射方向を自由に変えることができる。ISTは、このジンバルまで内製。電動式のリニアアクチュエータを採用しているのが特徴で、油圧式に比べシンプルで低コスト、そしてより早く動くことができるという。
ジンバルを各軸方向に向けることで、ピッチ軸とヨー軸の制御が可能。さらにZEROの第1段には、複数のエンジンが搭載されているので、これを連携させてロール軸の制御まで行うことができる。3軸制御をジンバルという単一の機構だけで行えるのは、コストの面でも信頼性の面でも、大きなメリットだと言えるだろう。
ジンバルは、同社の観測ロケット「MOMO」でも使用されていたが、ZERO用では、能力の大幅な強化が必要となる。エンジンの推力は約5倍で、重量は2~3倍程度。飛行速度は5倍以上にもなる。同社の稲川貴大代表取締役社長は、難しさについて「重いエンジンを早くガタ無くしっかり動かす必要がある。これが技術的なハードルだった」と述べる。
そのために、ジンバルのリンク機構を変更したほか、モーターも新たに特注品を使っているという。MOMOのジンバルは制御能力にあまり余裕が無かったため、風が理由の延期も多かった。しかしZEROでは、制御能力を強化することで、より強い風の中でも打ち上げを可能とし、延期を減らすことを狙っているそうだ。
ZEROは現在、「主要コンポーネントがどんどん設計段階からもの作り・評価に進んできているところ」(稲川社長)だという。打ち上げスケジュールについては今のところ2023年度のままで変更は無いが、世界的な半導体不足による部品調達の遅れなどには苦労しているそうで、時期については慎重に見極めている模様だ。
激しく振動するジンバル!
ジンバルはこれまで、部品単体での試験が進められてきたが、今回は、初めてジンバル機構全体でテスト。設計通りの速度や精度で制御ができているかを確認した。
ジンバルは本来、エンジンを吊り下げる形で使われるが、今回の地上試験モデルでは、テスト用に、上下を逆さまにした状態で設置されている。エンジンはまだ搭載されておらず、その代わりに、重量や慣性モーメントを合わせたダミーウェイトを使用。これでエンジンの動きを模擬している。
今回の試験で見ることができたのは、ジンバルのスイープ動作。これは、最初にゆっくり動き始めて、どんどん振動の周期を短くしていくことで、制御の周波数に対する特性を取得するというテストだ。
ジンバルで重要な性能の1つは、追従性である。角度を指示してから、実際にその角度へ動くまでには、必ずタイムラグがあるが、これはなるべく小さい方が望ましい。かなり極端な例にはなるが、たとえばこの遅れが振動の半周期もあったりすれば、機体の振動を抑えるつもりが逆に発散させかねない。
最後の方では振動が早すぎて肉眼では良く分からない状態だったが、データは正常に取得され、概ね設計通りだったという。今回の試験では、最大12Hzまで試していたが、実際のフライトでは、数Hzくらいまで使えれば大丈夫とのこと。
なぜ福島でジンバルを開発?
同社は、北海道・大樹町に本社と工場がある。射点も大樹町ということで、エンジンなど大きな部分はそこで開発しているが、そのほか東京と福島にも支社を設置。今回公開されたジンバルのほか、フェアリングやアビオニクスの開発も、東京・福島の両支社が中心となって進められている。
福島支社は、2021年7月に開設したばかりだが、なぜ福島だったのか。稲川社長は、北海道でのもの作りに関し、「製造業の企業が少ない」と課題を指摘。しかもロケットの部品は、独特の難しさがあり、その上、数が多く出るものでもない。「お願いしてもなかなか受けてもらえず、全国で探していた」という。
福島沿岸部の浜通り地域は、従来より航空機器部品の製造が盛んで、高い技術力を持つ企業が多い。東日本大震災と原発事故により大きなダメージを受けたものの、産業の復興を目指す国家プロジェクトとして「福島イノベーション・コースト構想」が進められており、そういった流れもあって、同社はこの地域への進出を決めた。
福島支社の近くには、福島ロボットテストフィールドもある。その設備で振動試験や熱試験が可能というのも、決め手になったようだ。
今回の公開には、地元・南相馬市の門馬和夫市長も出席。「いま復興に向かって頑張っているところだが、若い人たちが減ってしまった。若い人に住んでもらうために、チャレンジしているベンチャーを南相馬に呼び込みたい。市民を元気にできるし、経済の活性化にも繋がる」と、地元からの期待を述べる。
今回のジンバルの部品製造には、実際に市内の7社が参画したという。福島の企業との取引は、もともと1社だけあったが、支社を設立した2021年度には6社に拡大。2022年度は10社に増える見込みで、稲川社長は「今後はもっと増やしていきたい」と、さらなる規模の拡大に意欲を見せた。