また、“予想外”なこととして、側鎖上の炭素の数がわずかに違うことによって、単結晶中での積層構造が劇的に変化することも発見したとする。炭素数が1の置換基を導入したものは、1次元的な積層様式を取るが、炭素数が2もしくは3の置換基を導入したものは、デバイスの安定駆動に有利な2次元的な電子構造を持つヘリングボーン型の積層様式が示されたという。後者の積層様式は、溶液塗布による厚さ数十nmの薄膜においても再現され、高秩序な結晶性薄膜が実現されたとする。

  • 今回の研究で開発したd/π共役系分子の構造式と分子積層様式の模式図

    (左)今回の研究で開発したd/π共役系分子の構造式と分子積層様式の模式図。(右)その結晶性薄膜を半導体層として使用したFETの模式図。側鎖上の炭素数を1から2または3に伸長させたところ、積層様式が1次元からヘリングボーン型へと変化した。得られた2次元的な電子構造は、FETの安定的なキャリア伝導を可能とした (出所:東大 物性研Webサイト)

得られた薄膜を半導体層として挿入したFETから、アンバイポーラ型の電荷輸送特性を示すことを確認。その性能の指標となる、キャリア移動度とオン・オフ比のどちらにおいても高い水準が示されたという。これらの性能は、水や酸素を厳しく排除することのない開放環境において示されたものであり、高安定・溶液塗布可能・高移動度の新しいアンバイポーラ型半導体材料を実現させることができたと研究チームでは説明している。

なお、研究チームでは今後、d/π共役系分子の特徴である中心金属と配位子との組み合わせに基づく構造自由度の高さの活用や、側鎖上の炭素数による積層様式の変化に基づいた、より高次元的な電子構造による高輸送特性の実現がもたらす展開が期待されるとしているほか、こうした分子性材料を用いた精細な材料設計戦略は、電気伝導性材料にとどまらず、磁性材料、光機能性材料などの多様な用途に拡張可能だとしており、次世代の有機エレクトロニクスデバイスの発展への高い貢献が期待されるとしている。