刻々と変化する顧客の需要や購買行動にどう向き合っていくのか。多くの企業を悩ますこの課題に挑むため、オムロン ヘルスケアでは「新しい販売手法の創造」をミッションとするニューリテール課を中心に、販売戦略の構築など、さまざまな取り組みを行っている。
11月10日、11日に開催された「TECH+ EXPO 2022 Winter for データ活用 戦略的な意思決定を導く」に、オムロン ヘルスケア 国内事業本部 オンラインセールス統括責任者の吉岡瑞樹氏が登壇。「マクロ視点とミクロ視点の分析から構築する販売戦略とコミュニケーション改善」と題して、同社の取り組みを紹介した。
【あわせて読みたい】「TECH+ EXPO 2022 Winter for データ活用 戦略的な意思決定を導く」その他のレポートはこちら
オンライン、オフラインに広い販路を持つ同社の販売戦略
家庭用健康機器や医療機関向けの測定機器の製造販売大手であるオムロン ヘルスケア。吉岡氏はまず、国内における同社のBtoC市場の構造を紹介した。オンラインではAmazonと直取引するほか、楽天やYahoo、Amazonに公式店を持ち、自社ECサイトでも販売を行う。またオフラインのリアル店舗では家電量販店やドラッグストアチェーン、通信販売各社、ホームセンターなどに販路を持ち、健康機器を購入できる場所を広くカバーしている。
同氏が現在販売戦略において重要視している“3つの柱”は「潜在顧客と既存顧客の可視化」「売り場での販売戦略とコミュニケーション改善」「フロー型からストック型への移行」だという。
「顧客を知り、顧客とコミュニケーションを取り、その後も顧客とつながり続けることによって、顧客がどこにいるか、何を求めて同社製品を選ぶのかを可視化できます」(吉岡氏)
顧客の購買行動を可視化することが重要
講演では、これら3つの柱それぞれについて、具体的な内容が解説された。
まず「潜在顧客と既存顧客の可視化」については、顧客の購買行動を可視化することが重要であり、そのために市場構造を大きく見るマクロな視点と、顧客を個別に見ていくミクロな視点の両方から分析することを重要視しているそうだ。
マクロ視点の分析では、売上や人数、販売数量、購買に至る率といった販売指標を、販売チャンネルごと、製品カテゴリーごとに見ていくことで、ブランドが置かれている立ち位置を明確化することができる。一方ミクロ視点では、オンラインでの同社製品の購入者について、接触したサイトやキーワードによって行動を把握し、購入者の特性を見極める。吉岡氏が購買行動の中で特に重視しているのが、「健診結果や自覚症状による健康情報の検索開始」「健康機器の検索開始」「興味の対象を他社製品から同社製品に切り替える態度変容」という3つのポイントだ。これらを明確化することで、購入までの経路を短縮することが可能になるという。
「マクロ視点とミクロ視点の両方から包括的に分析することで、これまでにない分析が可能になり、新たな顧客、潜在的な顧客を見つけられます」(吉岡氏)
分析結果は繰り返し検証
2つ目のポイントである「売り場での販売戦略とコミュニケーション改善」については、前述の分析結果を売り場や広告にどのように活かすかが重要になってくる。広告配信により顧客にアプローチしても、購入に至るまでのストーリーはそれぞれ異なるため、分析結果を広告ターゲティングに100パーセント活用できるわけではない。そこで同社では、コンパクトなテストケースを作り、PDCAを回している。具体的には、分析、広告プランニング、広告配信、購入というサイクルの中で、広告を配信してから購入に至る過程を1度テストし、その結果を再度分析結果と照合する。それによって分析結果が正しかったのかどうかを繰り返し検証しているという。
吉岡氏の所属するニューリテール課では、このように細かくテストをした実績を基に、可視化された購買行動とナレッジを、カタログから家電量販店、通販インフォマーシャルなど全てのチャンネルに展開している。
「これによって新しい販売手法を創造し始めています。それがニューリテール課の存在意義だと思っています」(吉岡氏)
効果検証を体系化し、全ての部署を連携
さらに、「オンラインとオフラインのギャップを見ることで、販売戦略上の課題点も浮き彫りになる」と吉岡氏は説明し、例として血圧計の売り上げ構成を挙げた。オフラインは売れている製品の価格帯のバランスが良好だが、オンラインでは低価格帯が主体だ。これは、リアルの売り場にはコミュニケーションができる仕組みがあり、各価格帯の製品がバランスよく置かれているが、オンラインではランキングがあることなどにより低価格モデルばかりが並ぶからだという。
このギャップを埋めるために、同社では各プラットフォームとサイト作成のパートナーの3者で定期的にワークショップを開いている。そこで出された課題や改善ポイントはプランニングシートにまとめており、改善された場合にはその効果検証も実施。年間を通して改善や議論を行っているそうだ。
こうした体系化により、これまで分断されがちだった商品の認知から購入、継続までを、あらゆる部署で連携して横断的に見ることができるようになる。最終的には全てのマーケティング、プロモーションが完全に連動するようになってきたそうだ。
「これを新商品が展開されるごとに行っています。マーケティングの戦略としては一歩進んだかたちになってきているのではないでしょうか」(吉岡氏)