京都大学(京大)は11月22日、成果主義的制度に対する日本人と欧州系米国人の比較調査を行い、日本人は米国人と比べて、中心人物たちの貢献度を低く、状況的要因の影響や上層部の報酬を大きく見積もることを実証したと発表した。

同成果は、同大大学院人間・環境学研究科の内田あや 修士課程学生(研究当時、現所属The University of Melbourne)、同大 人と社会の未来研究院 中山真孝 特定講師、内田由紀子 同教授らによる研究グループによるもの。詳細はアジア社会心理学会の国際学術誌「Asian Journal of Social Psychology」にオンライン掲載された

成果主義的制度は、生産性向上や国際競争力強化を期待して日本でも導入が進められてきたが、近年の文化心理学の研究から、ヒトの心の在り方は、長年暮らしてきた文化や、そこでの価値観、慣習に強く受けることが分かってきているという。そのため、日本における成果主義的制度は、日本の文化的慣習や価値観の影響を受け、米国などでの運用や機能とは異なった在り方となると考えることから、今回、研究チームでは一般的な心理行動傾向の文化差が成果的主義制度の運用においても見られるんのかどうかを調べることにしたという。

具体的には、2つの研究で、合計432人の日本人と387人の欧州系米国人を対象にオンライン調査を実施。調査方法としては、参加者は職場で成果が上げられた様々なシナリオを読んで、そこでの貢献の評価と報酬(給与・昇進)の配分を考えるというもので、例えばXという人物が中心となって、難しい条件下にあるプロジェクトを、長年培った知識と経験を活かして適切な判断を駆使し、チームメンバーに的確な指示を与えて、成功に導き、利益を創出した場合、Xの貢献はどの程度か、成果のどの程度が運によるものだと思うか、チーム、会社の上層部、会社のオーナー、株主、会社などがそれぞれどの程度貢献したのか、Xやチームメンバー、上層部、会社などの利益配分をどうするのが良いのか、Xやチームメンバー、上層部の人間などが、どのくらいの確率で昇進すると思うか、といったことを参加者が回答するというものだという。

その結果、日本人は米国人と比べて、中心人物たちの貢献度を低く、状況的要因の影響などを大きく見積もることが示されたという。具体的には、日本人は米国人と比べて、貢献を行った人物やチームの貢献度を低く見積もり、運という背景的・状況的要因の影響が大きく、上層部の取り分を多くするのが良いと考える傾向が見られたという。また、もし中心人物のXがより多くのボーナスをもらったらどう思うかという質問に対しては、日本人は「恥ずかしさを感じる」だろうと答える傾向があったのに対し、米国人は「誇りに思う」だろうと答える傾向にあったという。このことについて研究チームでは、金銭的ボーナスを受け取ることの意味も文化的に異なっていることを示すものだとしているほか、興味深い結果として、日本では若い年齢の参加者は中心人物の貢献を大きく、また運の影響を小さく見積もる傾向が見られたともしている。

  • 日米の貢献評価の比較

    日米の貢献評価の比較 (出所:京都大学プレスリリースPDF)

この結果については、さまざまな解釈が可能だが、成果主義の導入によって貢献の評価の仕方が米国に近い評価の仕方になるように文化がが変容している可能性も考えられるとしている。ただし、実際の報酬の分配などでは年齢による違いは見られず、給与体系への考え方の変化は少ない可能性も考えられるともしている。

いずれにせよ、文化変容の可能性や在り方については今後の検討が必要かつ重要な課題となると研究チームでは説明しており、今回の結果を踏まえ、成果主義的制度の導入や設計において、運用する⼈間の心理過程やその背後にある分か的慣習、価値観を考慮する必要性が示されたとしている。

なお、研究チームでは、今回の結果は、実際の成果主義的制度の運用そのものを調べたものではないという限界はあるものの、一般の人々がどのような制度や貢献の評価・分配の方法が妥当であると考えているかを示すものであると考えられるとしており、今回の研究のような心理学の実証的アプローチによる成果が、社会的議論の土台を提供することを願って、今後も職場など社会にあるさまざまな場での人々の心理過程を明らかにする研究を行っていきたいとしている。