既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月7日、H3ロケット初号機の「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)を実施した。翌8日に開催された記者説明会には、JAXA・岡田匡史氏、三菱重工業(MHI)・新津真行氏の両プロジェクトマネージャが出席。燃焼試験の結果について報告した。
まずは、当日のスケジュールについてだ。当初の予定では、X-0(打ち上げ時刻)は朝7:30に設定されていたが、9時間遅れ、夕方の16:30となった。延期の理由は、移動発射台(ML5)に設置されていた計測装置の電源が投入されていない状態であることが分かったためだ。電源が入っていなかった原因については、現時点で不明。
この装置は、エンジン燃焼時の振動・音響を計測するために、追加されていたものだ。これは、今回のCFTでしか使わない装置。手順書で抜けていたのか、それとも作業ミスか、電源が入っていなかった理由は少し気になるところではあるが、いずれにしても打ち上げ本番では存在しないため、打ち上げに大きな影響はないだろう。
燃焼時間は計画通りの25秒で、データは良好に取得されたという。まだデータの全てが確認されたわけではないものの、2時間後に行われたクイックデータレビューでは、特に問題は見つかっていなかったそうだ。今後詳細な評価を進めていくが、データ量が多いため、全ての結果が出揃うまでには2週間ほどかかる見込み。
岡田プロマネはこのとき、竹崎総合指令棟(RCC)にて指揮を執っていた。燃焼が終わった瞬間、周りでは自然と拍手が起き、みんなで握手しあっていたという。
CFTは、ロケット開発での“最後の関門”とも言うべき大きな試験。ロケット実機のタンクとLE-9エンジンを組み合わせて燃焼させるのはこれが初めてであり、何が起きるかは、やってみないと分からない。何か異常が見つかれば大きな手戻りが発生する恐れがあり、無事に燃焼が完了すれば、それだけ安堵の気持ちも大きかっただろう。
ただその傍らで、エンジニアはすでに特別検証作業を開始していたという。ロケット実機の推進系に、打ち上げ本番と同じように極低温の推進剤が注入される機会というのは、そう多くはない。推進剤が充填された状態でないと取得できないデータというのもあり、CFTのタイミングを活用して、できるだけデータを取っておきたい。
それが、特別検証である。検証作業によって推進剤は減っていくため、現在の残量や時間で可能な作業量については限りがある。エンジニアが着手していたのは、それがどこまでやれるかといった検討だ。優先度の高い検証試験から行い、結果的に、やりたいことはほぼ実施して、必要なデータを取得できたという。
またCFTでは、ロケットと地上設備の確認だけでなく、安全監理システムの試験も行われた。CFTは機体が実際に飛行するわけではないのだが、飛行時と同じように追尾局と通信を行い、エンジン燃焼中でも正常にデータが届くかを確認した。こちらについても、データは良好に取得されている。
CFTは無事終了したものの、「打ち上げは1つのミスも許されない厳しいもの」と、新津プロマネは気を引き締める。「データの中に、何か見逃していることは無いのか。そういうところを最後まできっちり詰めないと、打ち上げの成功には至らない。中身をしっかり確認し、万全の体制で打ち上げに臨みたい」と述べた。
CFTの評価が完了すれば、いよいよ次は、打ち上げ時期が見えてくる。評価の結果によっては、CFTの再試験が必要になる可能性も残ってはいるものの、今のところ大きな問題は見つかっていないので、おそらくは大丈夫だろう。打ち上げ時期について、具体的な言及は無く、2022年度中という予定は変わっていない。
岡田プロマネは、「山を越えつつあるのは非常に大きい」と、手応えを口にする。「ロケットエンジンは手強いという当初の予測通り、警戒していたところでその通りになって非常に苦労したが、なんとかここまで辿り着けた。これから打ち上げに向かってもうひと頑張り。仲間と同じ気持ちで向かって行きたい」と意気込んだ。
なお、この記者説明会の最中、H3ロケット初号機は再び大型ロケット組立棟(VAB)へと返送された。2回目のCFTでも無い限り、機体が次に射点に立つのは、打ち上げ本番のときになるはずだ。日時はまだ分からないものの、引き続きもちろん現地取材を行う予定なので、続報をご期待いただきたい。