BaAl2O4ではバリウム(Ba)をストロンチウム(Sr)で全置換することができ、Ba1-xSrxAl2O4の化学式においてx=0.1付近で構造量子臨界点が現れる。そして今回の研究では、Ba1-xSrxAl2O4の構造量子臨界点近傍では、非晶質固体が通常示す過剰な格子比熱や、SiO2ガラスと同等の低熱伝導率が観測されることが発見された。

また、放射光X線を利用して結晶構造やその局所構造が詳細に調べられたところ、通常の構造相転移で期待されるような結晶の長距離秩序構造が、構造量子臨界点に向かって抑制されていることが判明したほか、構造量子臨界点以上の組成では、もともと原子振動の小さいBa原子は理想的な位置付近にとどまっているものの、AlO4(酸化アルミニウム)ネットワークにおいて理想的な原子配列からのずれが生じていることも明らかにされた。

  • 構造量子相転移の概念図

    構造量子相転移の概念図 (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

さらに、中性子を用いてその原子振動状態の詳細な解析が実施されたところ、構造量子臨界点組成に向かって原子振動が全体的に大きく減衰していることが確認されたとする。そこで得られる中性子スペクトルは、非晶質固体において通常観測されるものに、その特徴が一致していたという。つまり、構造量子臨界点では、原子振動の位相が乱れた状態で音響ソフトモードが停止する(凍結する)ことで、Ba副格子は結晶の並進対称性を維持しながら、AlO4ネットワークではまさにガラス状となった「副格子ガラス状態」が実現し、上述の非晶質的な特性を引き起こしていることが、明らかにされた。

通常、結晶質固体は周期的な原子配列を基本としており、それによって並進対称性が満たされている。今回の成果は、ガラスのような周期構造の乱れが、結晶の並進対称性と共存可能であることを示すものだという。

  • c軸方向から投影した図

    BaAl2O4の理想的な結晶構造を、Ba副格子とAlO4酸素四面体によるネットワークに分けて、c軸方向から投影した図。このように、BaAl2O4の結晶構造は、Ba原子の周期的な配列が作るBa副格子に、AlO4酸素四面体が作るネットワークが貫入した構造と見なすことが可能だという (出所:大阪公大プレスリリースPDF)

今回の研究で発見された、結晶の周期性と非晶質のランダムネスを併せ持つ副格子ガラス状態では、それを形成する周期構造と、ガラス状ネットワークのハイブリッド構造を取る。この特殊なハイブリッド構造によって、同物質は、明らかに結晶質固体であるにもかかわらず、SiO2ガラスと同程度の低熱伝導率など、非晶質固体で一般に見られる熱的特性を示すことが確かめられた。またこの副格子ガラスの原子振動状態は、非晶質固体が示す原子振動状態と、特徴が一致していることもわかったという。

なお、この副格子ガラス状態は、原料を均一に混合して加熱するという簡便な方法で作り出すことが可能だという。また同現象は、音響ソフトモードを持つ物質であれば原理的に起こり得ること、またこの原理の適用に関し新たなプロセス開発は不要だとする。このことから、同原理をさまざまな物質へ適用することで、結晶と非晶質の2つの性質を併せ持つ、ハイブリッド材料の実現が期待できると研究チームでは説明している。