岐阜大学は10月19日、食事制限によるダイエット後に体重リバウンドを起こすかどうかを決定する脳視床下部の神経機構を発見したことを発表した。

同成果は、岐阜大 医学系研究科の矢田俊彦 客員教授(関西電力医学研究所統合生理学研究センター長)、岐阜大 大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学のLei Wang医学研究員、慶應義塾大学 医学部生理学教室1の須山成朝 特任助教らによるもの。詳細は、学術誌「Frontiers in Nutrition」(オンライン版)に掲載された。

今回の研究は、矢田客員教授らが自治医科大学所属時(2018年3月まで)から継続してきた研究で、食事制限によるダイエットにおいてしばしば問題となるが、機構が良く分かっていなかったリバウンドの理解を目指して進められてきたもの。脳内で食欲を作り出す神経物質の1つに視床下部弓状核ニューロペプチドY(NPY)があり、Y1受容体を介して摂食を促進することが知られているほか、視床下部室傍核の食欲抑制性のオキシトシン(OXT)神経は興奮性シナプス伝達により活性化され、摂食を抑制すること、弓状核NPY神経はNPY分泌を介し室傍核OXT神経を抑制性に制御していることなどが知られていたという。

今回の研究では、食事制限したマウスから取り出した脳スライスで神経細胞活動を測定する実験を実施。24時間の100%食事制限は、NPYのY1受容体を介した作用により、室傍核OXT神経への興奮性入力(興奮性シナプス後電流:EPSC)が抑制されたことが確認されたほか、24時間の食事制限の後、自由摂食条件にすると、このシナプス電流の抑制および1日摂食量の増加が3日間継続し、続いて、晩発性(自由摂食後7日以降)の摂食量と体重の増加(リバウンド)を起こすことが確認されたという。

一方、24時間の50%食事制限では、制限後2日間は同様の効果を示したが程度は小さく、その後は持続的な摂食量と体重の減少を示したという。

  • 食事制限による興奮性シナプスの抑制と摂食量の変化の機構

    食事制限による興奮性シナプスの抑制と摂食量の変化の機構、ならびに100%/50%制限後の1日摂取量と体重の変化 (出所:岐阜大プレスリリースPDF)

また、シナプス電流の抑制と1日摂食量の増加の機序を解析したところ、食事制限によるシナプス電流入力抑制と急性の摂食量増加はY1受容体阻害剤の脳室内投与で打ち消されること、単離した脳スライスをNPYで短時間処理すると、OXT神経のシナプス電流は抑制され、その作用はY1受容体阻害剤の投与で打ち消されることを確認。これにより、食事制限→NPY→Y1受容体→OXT神経シナプス電流抑制→摂食量増加の経路が判明したとする。

  • 24時間の100%制限だと、興奮性シナプス後電流を抑制し、1日摂食量の増加(過食)が生じる

    24時間の100%制限だと、興奮性シナプス後電流を抑制し、1日摂食量の増加(過食)が生じるが、それらの変化は脳室内へのY1受容体阻害剤の投与で消失することが確認された。また、分離した視床下部スライスを3時間NPY処理したところ、興奮性シナプス後電流は抑制され、この作用は同時にY1受容体阻害剤を投与しておくと消失することも確認された (出所:岐阜大プレスリリースPDF)

さらに、100%と50%の食事制限後1日目のデータをまとめて解析したところ、OXT神経への興奮性シナプス電流と摂食量増加(EPSC抑制-摂食量増加)の間の関係は飽和曲線を示し、ヒステリシス(不可逆的な変化)が示唆され、これがリバウンドの原因と考えられたとする。

  • 100%/50%制限後1日目の興奮性シナプス抑制と1日摂食量の増加の関係

    左から、100%/50%制限後1日目の興奮性シナプス抑制と1日摂食量の増加の関係。飽和曲線と不可逆的変化(ヒステリシス)の特性。飽和曲線と不可逆的変化の特性による4-12日目の1日摂食量のリバウンド増加 (出所:岐阜大プレスリリースPDF)

この結果について研究チームでは、食事制限によるダイエットの強度を過度ではなく適切にし、脳内神経経路を可逆的な範囲で作動させることにより、体重リバウンドを起こさないダイエットの成功につながることが示すものであり、この知見を取り入れた食事療法を考案することで、肥満症や糖尿病の優れた予防治療につながることが期待されると説明している。