東京工業大学(東工大)は10月14日、空間への注意に対する右脳優位性に「島皮質」(とうひしつ)という部位が関連していることを、脳波実験とfMRI実験から明らかにしたと発表した。

同成果は、東工大 リベラルアーツ研究教育院の大上淑美研究員、同・小谷泰則助教らの研究チームによるもの。詳細は、脳と行動の生理学的および心理的側面の間の相互関係に関する全般を扱う学術誌「Psychophysiology」に掲載された。

損傷した脳部位の反対の方向へ注意を向けられなくなる「半側空間無視」は、左脳よりも右脳に損傷を受けた場合に生じることが多いことが知られている。その理由としては、左空間への注意は右脳のみが対応するが、右空間への注意は左脳と右脳の両方で対応するからと考えられている。

  • 大脳における島皮質の位置

    大脳における島皮質の位置。(A)大脳の外観模型。(B)模型の一部が外され、島皮質の位置(白点線で囲んだ箇所)がわかりやすいように示されている。島皮質は前頭葉、側頭葉、頭頂葉の一部である弁蓋(べんがい)と呼ばれる部分で覆われ、脳の表面からは隠れているために見えない (出所:東工大プレスリリースPDF)

このことは、右脳は損傷すると左右両方の空間認知に影響が生じることを意味しており、左脳よりも右脳がより重要である(優位性がある)といえるという。しかし、なぜ右脳が損傷した場合に多く障害が生じるのか、なぜ右脳が優位になるか、その理由についてはまだ不明な点が多いという。そこで研究チームは今回、空間的注意に関わる脳活動の違いを時間評価課題中の「刺激先行陰性電位(SPN)」(脳波実験)と脳の活動部位(fMRI実験)から検討することにしたとする。

空間的注意においては、島皮質が関与しており、左脳よりも右脳の島皮質が優位に働くということがわかっている。SPN脳波実験では頭皮上58個の高密度脳波電極から測定され、fMRI実験では血流動態から脳の活動部位が調べられることで、まず実験参加者による時間評価課題が行われた。

脳波試験では、視覚刺激も聴覚刺激も左側呈示された場合には右脳の活動が有意に増えていたが(右脳優位)、右側呈示では左脳の活動は増えていないことが確認されたほか、頭皮上電位分布では、左右どちら側に刺激を呈示した場合でも右脳の活動が増加していることが確認されたという。また、聴覚刺激と視覚刺激の2種類が行われたが、結果はどちらも同じだったという。

  • 頭皮上電位分布図

    頭皮上電位分布図。頭頂から首までを後ろから見た平均脳波の分布図で、FB呈示前の図だ。SPNは陰性の脳波なので、青色が濃いと活動が高く、薄いと活動が低い。頭部右側は青色が濃く、活動が大きいことが示されている (出所:東工大プレスリリースPDF)

fMRI実験では、右側刺激時にのみ左前部島皮質が活性化し、右前部島皮質は左右両方の刺激で活性化していることが判明。左の前部島皮質は聴覚刺激または視覚刺激の右側呈示でのみ活動を示すのに対し、右の前部島皮質は全条件で活動が見られることが明らかにされた。

島皮質は、脳内で「顕著性ネットワーク」を構成し、この中心領域として活動することが知られている。同ネットワークは感情・認知・ほかの脳内ネットワークのコントロール・身体情報の知覚など、さまざまな機能と関係し、同ネットワークも右脳優位性を示すことがわかっている。