近年の数値シミュレーションを用いた研究により、降着プラズマと共に磁場が落ち込み、ブラックホールが強く磁化されていると考えられるようになった。そして強く磁化したその周囲では、磁力線のつなぎ替えである「磁気リコネクション」による突発的なエネルギーの解放現象が見られるという。同現象は太陽フレアでも良く観測される現象で、磁場エネルギーを周囲のプラズマのエネルギーへと変換する機構となっている。
太陽フレアでの磁気リコネクションで加熱されたプラズマは、幅広いエネルギー帯域の光子(可視光線~紫外線~X線)を放射する。ブラックホールでも同様だが、プラズマ1粒子あたりのエネルギーが太陽フレアの約10億倍もあり、とてつもない高エネルギーの光子(X線~ガンマ線)が放射されていることになる。
この理論モデルでは、多量の高エネルギーの光子がブラックホール近傍の小さい領域から放射されることを意味する。その結果、光子同士が頻繁に衝突することで多量の電子・陽電子対が生成され、電波ジェットへとプラズマが供給されるという。
この機構ならば、ブラックホール表面近傍の小さな領域において効率的に磁気エネルギーが高エネルギーの光子へと変換されることで、これまでに提案されていた理論モデルの約10万倍という高いプラズマを電波ジェットへと供給することが可能だとした。
そして同モデルでは、電波ジェットへと供給されるプラズマの量はブラックホールの質量や落ち込む降着プラズマの物質量などに依存するため、天体ごとに電波ジェットの明るさが大きく異なると予言されている。たとえば、M87銀河中心に位置する、太陽質量の約65億倍もの超大質量ブラックホールでは、多量のプラズマが電波ジェットへと供給され、明るい電波ジェットが形成されている。
それに対し、我々の天の川銀河の中心にある大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」は、太陽質量の約400万倍という“軽さ”のために降着プラズマの物質量が少なく、電波ジェットへと供給されるプラズマの量も少なく、現在の技術では電波ジェットを観測することはできないという。これらの予言は、現状の観測結果と一致しており、電波ジェットの有無を自然に説明できるモデルとなっているとする。
また、大質量ブラックホールが駆動するフレアからは、強いX線が放射される。これまでにも大質量ブラックホールからX線の増光現象は観測されているが、今回の理論モデルは、より短時間のX線フレアの予言もしている。今までのX線観測衛星ではそのような短時間X線フレアは見逃されてきたが、次世代のX線観測衛星では観測可能であることから、研究チームでは、将来のX線天文学により、「残された課題」である電波ジェットの起源の解明も期待できるとしている。